『わたしの婚約者は年上家庭教師』・1

2017.05.05(23:49)

あらすじ
 わたしの婚約者は家庭教師でもある。歳の差15歳なのに、すでに結婚が決まっているその原因とは!
 その原因はわたしがまだ幼い頃に、彼にプロポーズしたからだと言う。
 でも当時、わたしはまだ3歳で彼は18歳!
 信じる方がおかしいのに、15年経った今でも彼は本気にしている!
 このまま、わたしは本当に彼と結婚してしまうの?


『アメとムチを使い分けるのは、将来の旦那さま? 』

「うっう~ん」
「後5分ですよ、希姫(きひめ)お嬢様」
「ううっ…」
 最後の一問がどうしても解らない!
 そもそも数学って苦手なのよねぇ。
 覚えなきゃいけないことはたくさんあるのに、問題に出るのはほんの少し。
 覚えきれないってーの!
 プリントを睨み付けるも、解き方はいっこうに浮かばない。
「ちなみに解答欄を一つでも空白で提出した場合、お仕置きですからね」
「ひぃっ!」
 その言葉に、思わず背筋が伸びる。
「かっ書きます書きます!」
 シャープペンを改めて握り、必死に記憶を手繰り寄せる。
 唸りながらも、残りの僅かな時間でなんとか空欄は埋めた。
「―はい、終了です」
「なっ何とか終わったわ」
 ぜぇぜぇ息を切らしながら、プリントを差し出す。
 33歳になる彼は、神経質そうにメガネを指で上げた。
 そして赤ペンを取り、プリントを机に置いて、恐るべきスピードで採点する。
 結果、86点。
「あうぅ…」
「まあまあですかね。本当は90点台が好ましいのですが」
 やっぱり最後の一問に、大きな×が付いている。
 ここで点数を削られたと言っても過言じゃない。
「お嬢様、方程式の使い方が不器用ですね。解き方が美しくありません」
「…悪かったわね。ブサイクな解き方で」 
 コレでも必死に思い出しながらやったのだ。
 わたしとしては、自分を褒めてあげたいぐらいの高得点。
「しかし拗ねている場合ではありませんよ? 結婚式まで、一年を切っているんですから」
 わたしの耳元で低く囁き、先生の手がわたしの肩に回された。
「わっ分かっているわよ!」
 赤くなる顔を俯いて隠し、わたしは彼の魔の手から逃げた。
「首席卒業までとはいきませんが、せめて成績優秀者として卒業してくださいね。あなたは私の妻になるんですから」
「…分かっているわよ」
「では間違えたところの復習をしましょうか。ノートを開いてください」
 …幻聴だろうか? 
 『復習』が『復讐』の意味に聞こえるのは。
「はぁい」
 しかし考えてもなんなので、深くため息を吐きながら、わたしはノートを開いた。
 先生とわたしの結婚まで、あと数ヶ月―。
 何でこんなことになったのだろうと、今更ながら思う。
 …まあ自業自得なんだけどさ。 


 思い起こすこと15年前の春。
 わたしはまだ当時、3歳の少女だった。
 ウチの家はいわゆる資産家で、金と権力と地位を持つ家系だった。
 家も大きな洋館で、メイドや執事などの使用人も合計30人はいる。
 小さな頃から、パーティーやお茶会に呼ばれ、または呼んでいたので、大人相手でも怖気づくことなく、接していた。
 …それが災いしたんだろうな。
 3歳の春の日、ウチの両親が家に先生の家族を招いていた。
 わたしの両親と、先生の両親は古い知り合いで、昔から良く家に遊びに来ていた。
 そうしてわたしと先生は出会った。
 あの日は大人達が話題で盛り上がり、わたしと当時18歳の先生は、中庭で遊んでいた。
 庭は庭師が丁寧に手入れされていたけれど、タンポポなどの花も咲いていた。
 わたしは先生に花冠の作り方や、植物についていろいろ教えてもらっていた。
「スゴイねぇ! おにいちゃん、先生みたい」
 物知りな先生を、わたしは本当の先生のように慕った。
「そうですか?」
「うん! お花の冠も、上手にできたし」
 白詰草で編んだ冠は、ちょっと形は崩れていたけど、何とか編めていた。
「それは希姫お嬢様が器用だからですよ」
 そう言って優しく微笑むと、わたしの手から花冠を取って、頭の上にそっと置いてくれた。
「どう? お姫さまみたい?」
「ええ、可愛らしいですよ」
 その時、あんまりに優しく微笑むから…わたしの胸は高鳴ってしまった。
 わたしはテレを隠すように背を向けた。
 先生は当時からメガネをかけていて、キレイな黒髪をしていた。
 一見は冷たそうな文学青年っぽかったけれど、わたしにはとても優しかった。
 …当時は(遠い目)。
 視線を動かした先に、黄色いタンポポが目に映った。
 わたしはキレイに咲いているタンポポを一本摘んだ。
 そして良いこと…本当はとんでもないことを思いつき、笑顔で振り返った。
「ねぇ、おにいちゃん」
「何ですか?」
「左手、出して」
「良いですよ」
 先生は笑顔で左手を差し出してくれた。
 わたしは自分よりも大きな手を取って、先生の薬指に、タンポポを巻きつけた。
「コレは…」
「えへへ。結婚指輪♪」
 わたしは顔を真っ赤にしながら、微笑んだ。
「おにいちゃん、将来わたしと結婚して!」

ゴブッ★(心の吐血)

 おっ思い出しただけでも、ダメージがっ!
 心臓と頭が変な動きをする。

 先生はキョトンとし、薬指に巻きつけられたタンポポとわたしを交互に見た。
 そして次の瞬間、笑顔で言われた一言は、今の人生を狂わせた。
「ええ、いいですよ。希姫お嬢様が18になりましたら、結婚しましょう」
「ホント!? 嬉しい!」
 わたしはすっかり舞い上がって、先生に抱きついた。
 先生は優しく抱きとめてくれた。
「ええ、本当です。私は希姫お嬢様に嘘はつきませんよ」
「うん! じゃあ絶対の約束よ?」
「分かりました。ちなみに希姫お嬢様は、タンポポの花言葉を知っていますか?」
「ううん」
 わたしは素直に首を横に振った。
「タンポポの花言葉は、『真心の愛』と言うんですよ。お嬢様の愛、確かに受け取りました」
 そう言ってタンポポに口付けた。


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