フリーのシナリオライターとして活動しています
 ―文化祭当日。
 控え室で、俺は彼と二人きりだった。
 すでに着替えを済ませ、後は本番を待つばかり。
 だけど…。
「カツラって重い…」
 腰まで伸びている長い髪のカツラをかぶせられ、俺はうなっていた。
「とってもキレイだよ。本当に奪っていきたいぐらい」
 女物の着物を着ている俺とは反対に、彼は男物の着物を着ていた。
 彼も長い髪のカツラをかぶっているけど、平気そうだ。
「あぁ…。本当にキレイだ」
 彼は俺をじっと見つめる。
 その熱っぽい視線がちょっと恥ずかしくて、俺は顔を背けた。
「あんまこっち見るな。どうせ舞台でイヤってほど見るだろ?」
「それも今日まで。明日になったら、着てくれないよね?」
「俺にはコスプレ趣味はないからな」
「もったいない」
 背後で彼が立ち上がった。
 そして後ろから抱き着いてくる。
「…じゃあ、二人きりの時なら良い?」
 耳元で熱い吐息を感じて、思わず身を小さくする。
「イヤだ…」
「なら、こっち向いてよ。眼に焼きつけといたい」
 コスプレを要求されるよりは、マシか。
 俺はゆっくりと振り返る。
「ああ…やっぱりキレイ。今日だけなんて、もったいないよ。本当に」
「お前、いい加減しつこいぞ?」
「うん、ゴメン。でも仕方ないよ。だってボクは…」
 頬にそえられるキレイな手。
 少し上を向かせられ、…重なる唇。
「キミの恋人なんだから」
「…どこで選択を間違えたんだろう?」
「ひどっ!?」
「だってそうとしか、思えないだろう?」
 同じ部活で、同じ歳で、しかも同じ性別…。
 いくら男子校だからって、恋人に同性を選ぶなんて…。
「でっでもボクは、今更別れる気なんてないからね!」
「大声出すな」
 声に怒気を含ませ、俺は軽く彼の頬を抓った。
「ひだっ」
「後悔は別にしてない。あの時、決めたのは俺自身だから」
 彼の俺を見る眼に、特別な感情が含まれていることに気付いたのは、この劇の練習をはじめてからだった。
 どこか熱っぽく、甘い感情。
 否定しようのない熱い感情に、俺は嫌悪を感じなかった。
 だから…受け入れた。
 彼の気持ちを。
「…ホラ、そろそろ本番始まるぞ」
「うっうん」
 そして幕は上がった―。
 劇場時間は一時間。
 講堂は立ち見までできるほど、満員。
 後は演技力にかかっている。
 脚本は部長が担当している。
 部長は俺や彼のことを良く理解してくれて、与えられた役もそう難しくは無い。
 だから自然に演じられるのが嬉しい。
 でも…演じている間にも、彼のことを考える。
 彼はいつも俺に、感情をぶつけて、愛情をくれる。
 俺もできる限りは返したいと思っている。
 彼を、愛しているから。
 でも演技はできるのに、本当の俺だとうまく相手に感情が伝わらない。
 それがもどかしい。
 彼だって、不安になっているだろう。
 どうやって伝えたら良いのか考えているうちに、ラストシーンになる。
 二人は国を捨て、親を捨て、全てを捨てて、添い遂げる為に逃げることを決めた。
 俺は彼と向かい合う。
 手を握り、俺は言った。
「―お慕い申し上げます」
「ええ、私も愛していますよ」
 そうして二人は熱い口付けを…するように見せることを、俺が決めた。
 でも…。
 近付く顔が、止まりそうになる。
 俺は目を閉じて、背伸びした。
「えっ…」
 一瞬だけど、確かに重なった唇。
「愛しています、貴方だけを」
 彼の眼を真っ直ぐに見て、伝えた。
「あっああ…! ボクも愛している!」
 彼は泣きそうな顔になって、思いっきり俺を抱き締めてきた。
 そして観客から沸きあがる。
 ああ…後が怖い。
 けれど彼の嬉しそうな顔が見られるなら、たまには…良いかな?



<終わり>
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【2011/09/30 18:22】 | <Boys Kiss>シリーズ
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