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狂恋・7

「それで本当は私の役目、立て直すことではなく、片付ける準備をすることなんです」
 片付け…ってまさかっ!
「潰すつもりなのか? ウチの会社っ! って、うっ…」
 つい力んでしまったせいで、オレの中にある利人を締め付けてしまった。
「ちょっ、いきなり興奮しないでくださいよ」
 さすがに締め付けがきつかったのか、珍しく苦悶した表情を見せる。
「悪い…。でもびっくりして」
 しばらく息を整えていると、何とか力が緩んだ。
「はぁ…。まあ言い方は悪かったですけど、事実そうなんです。それでも使える人材がいれば、見つけてこいとの上からのお達しで」
 …本格的に見捨てられたな、ウチの会社。
「でも父から言われたことは違うんです」
「はっ? 何でそこでお前の父親が出てくるんだ?」
「父はおもしろいことが大好きですから。それで本当にあの営業部を立て直し、一年間で営業成績を上げれば、私は実家の会社を継ぐことができるんです」
 どういう条件だよ。
 っていうか、他人の会社を巻き込むなんて、やっぱり異常な血筋だ。
「私の方からも、条件を出しましたけどね」
「何をだ?」
 利人はオレの眼を真っ直ぐに見つめた。
「私の推薦する人を、私の秘書にすること。本当ならば父から推薦された人物を秘書にするようにと言われていたんですけど、真っ平ゴメンですからね。私は雅夜を推薦したいと思っています」
 何だか話がだんだん見えてきたぞ。
 利人は父親の会社を継ぎたい。
 その為にはウチの会社の営業部を、一年で立て直さなくてはならない。
 そうすれば会社を継げる上に、オレを秘書として側に置くことができる。
 それって…。
「…お前が『あの時』、言った言葉だな」
「はい、もちろん。言いましたでしょう? 恋は人を強くする、と」
 自信満々という表情で、オレにキスをしてきた。
「とりあえず、指輪は一年後まで待ってくださいね? これからは忙しくなりますから」
「はいはい」
 もうめんどくさくなって、適当に相槌を打つ。
 利人は心底楽しそうに語り続ける。
「あと、引っ越しはすぐの方が良いですから…」
「誰の引っ越しだ?」
「雅夜のですよ。決まっているでしょう?」
「いつから決まった!」
「二人一緒にいれば、不可能なんてないです。それに見張りの意味もありますしね」
「くっ…!」
 十年前のことは、いつまで言われ続けるんだ?
「まっ、今日ぐらいは何もかも忘れて、お互いを求め合いましょう」
「自堕落な後継者だな」
「そういう方が、魅力的でしょう?」
「言ってろ」
 そう言いつつも、オレから利人にキスをした。
 どうせ何を言ったって、聞き入れやしない。
 コイツはオレのことで、いっぱいなんだからな!



 ―一年後。
 オレは利人と共に、飛行機のファーストクラスに乗っていた。
「すみません、雅夜。自家用ジェット機、今メンテナンス中でして…」
「いや、いい。普通の飛行機でいい」
 と言うより、ファーストクラスに乗っている時点で良い。
 ちなみにこれからオレ達が向かうのはアメリカ。
 そこには利人のご両親がいて、改めて秘書就任の挨拶に行かなくてはいけないのだ。
 利人のヤツ!
 まさか本当にウチのダメ営業部を立て直し、あまつさえ今年度の営業成績ナンバー1にするとは思わなかった!
 …せめて3位ぐらいだと思っていたのに。
 あれからオレはすぐに引っ越しを強制され、利人と共に暮らしていた。
 オレは相変わらず事務で頑張っていた。
 利人は本当に頑張って、あらゆる努力をして営業部の人間を奮い立たせ、全員をヤル気のある社員に変えてしまった。
 その影響か、他の社員達もヤル気を出し、おかげさまで営業成績がうなぎ上りどころか、ジェット機上りだった。
 居心地が良かった職場はすっかり変貌してしまい、オレは逆に居心地の悪さを感じていた。
 そんな中、利人の期間が終了。
 泣きながら子会社の人間達に縋られるも、アッサリ振り切って、会社も退職。
 今では華宮グループの正式な後継者として、動き出している。
 そしてオレも…コイツが退職する時に、同じく会社を辞めていた。
 利人の正式な秘書になる為に。
「でも秘書って何をすれば良いんだ? そもそもお前の方が優秀なんだから、秘書なんていらないだろう?」
 『秘書になる為の必勝法!』という怪しげな本を読みながら、思わず愚痴った。
「ええ、私に秘書は必要ありません。全て自分一人で何とかできますから」
「じゃあ何でオレなんだよ?」
 ブスッとしながら言うと、左手を持ち上げられた。
 薬指にはプラチナリングがある。
「ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
 利人は自分の左手を上げて見せる。
 オレがしているのと同じデザインのリングが、利人の薬指にもはまっていた。
「そっそれとこれとは違うだろっ!」
 利人の手を振り払い、左手を背後に隠す。
「手段としては同じです。いつも一緒ならば、何だって良いんですよ」
 コイツは…告白してきた時から、何にも変わっちゃいないな。
「ああ、あと両親には『生涯を共に過ごしたいしたい人がいる』と言っていますので、秘書兼結婚報告ですね」
「はあっ?」
 それは聞いていないっ!
「今更隠すことでもないでしょう。高校の頃、しょっちゅう私の家に来ていましたし」
 げっ! まさかバレてんのか!
「向こうに着きましたら、二人っきりで結婚式を挙げましょうね」
 …すでに利人の頭の中は、オレとの未来のことでいっぱいなんだろう。
 深くため息を吐くと、オレは真っ直ぐに利人の眼を見た。
「分かった。いくらでも付き合ってやる。お前がオレを飽きるまでは、な?」
「そんなの未来永劫、例え死んでもあり得ませんよ? 覚悟してくださいね」
 そしてお互い笑い合い、キスをした。



【END】 

★最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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狂恋・6

 しかし片足を掴まれ、引っ張られた。
 ―逃亡終了。
 それどころか掴まれた足を上げられ、アソコが利人に丸見えにされた。
「なっ、おいっ!」
 制止する声も届かず、香油に塗れた指がオレの窪みに触れた。
 にちゃっ…と音が鳴ったと思うと、形の良い利人の指が一本、躊躇いもなく奥まで一気に入れられた。
「くっ…!」
 思わず顔をしかめ、指をしめつけてしまう。
 けれどすぐに体中に熱がジワジワと広がっていく。
「うぅっ…」
 この感覚には覚えがある。
 熱はやがて甘い痺れとなって、体に染み渡る。
 息が上がり、鼓動も高鳴ってきた。
「あっ、利人っ…!」
「馴染んできたみたいですね。久し振りで良いでしょう?」
 ちっとも良くない!
 けれどそれを伝えるだけの余力がない。
 今にもイキそうになるのを、必死に抑えているからだ。
 人の気を知って知らずか、利人は指を抜き差しし始めた。
「あっ…!」
 甲高い声が出てしまう。
 利人の指が少しでも動くたびに、腰に甘い痺れが起こってしまうからだ。
 やがて指が二本になり、三本になった。
 その頃にはもうアソコはグチャグチャで、淫靡な音を出していた。
「うっ…!」 
 もう耐え切れなくなって、自分のモノに触れようとする手を、利人に止められる。
「おっおいっ」
「一緒に、って言いましたでしょ?」
 そう言うとオレのモノをギュッと握ってきた。
「うぐっ! 利人っ!」
 先端を握られ、出せない欲望が体の中で暴れる。
 その苦しさに涙ぐむも、掴む手の強さは変わらない。
「分かりました。すぐにイかせてあげますからね」
 悪魔の微笑を浮かべると、オレの膝を折り曲げ、ベッドに付かせる。
 利人の怒張が、ぬるぬるになった窪みに触れる。
「ふっ…!」
「力を抜いてください」
 ズンッ…と腰に重みがかかった。
「ああっ!」
 利人自身が一気にオレの中に入ってきた。
 その大きさと硬さ、そして熱さに頭の中が痺れた。
「あっ、利人っ! 利人ぉ!」
 両手を伸ばし、利人の背中に縋り付いた。
「もう…私を裏切ってはイヤですよ?」
「裏切らないっ! ずっと側にいるからっ…」
 泣きそうな顔の利人。
 ずっと苦しんできた十年間を、オレは受け止めなきゃいけない。
「本当はじっくり味わいたいところですが、久し振りすぎて理性が制御できません。―このまま、私に狂ってください」
「…ああ」
 腰を掴まれ、激しい挿入が始まった。
「あっ、やっ、激しいっ…。利人っ、もっとゆっくりっ…!」
 キングサイズのベッドが、ギシギシと揺れている。
 がくがくっと容赦なく揺す振られ、息をすることもままならない。
「はぁっ、ああっ!」
 口で息をしているせいか唾液が溢れ出し、頬からノドに伝う。
 その様子を見て、利人のノドがゴクッ…と鳴った。
「雅夜…! 愛しています、私の雅夜っ!」
 利人が腰をより深く沈める。
「あっ、やっ!」
 さっきよりも深く突き刺さってくる怒張は、すでに限界が近そうなぐらい膨れ上がっていた。
「利人っ…深いっ!」
「感じてください、私を…。あなたの一番奥で…」
 切ない声で耳に囁きかけてくる。
 オレの欲望を掴む利人の手が動き出した。
 最初はゆっくりだったのに、だんだん腰のスピードと同じ速さで扱かれる。
「うあっ!」
 二ヶ所を攻められ、息なんかできなくなる。
 怒張がオレの奥の前立腺を激しくこする。
 あとはただ、快感のみが波のように押し寄せてくるばかり。
「あっああっ…! 利人、狂うっ! お前に狂ってしまうっ!」
「もっと狂って見せて、雅夜…! あなたは私にだけ狂えば良い!」
 貪るように口付けられ、もう何も考えられない。
「あっ、ああっ!」
 最早限界だったオレの欲望は、スゴイ勢いで飛び出した。
 利人の手やオレの腹の上に、おびただしい量が吐き出された。
「っ! 雅夜っ!」
 ぎゅっと強く抱き締められるのと同時に、腹の中に利人の欲望が放たれた。
「あっ、うっ…!」
 熱くてドロッとしたモノが、腹の中を満たしていく。
「はあっ、はあ…」
 お互い欲望を出し切った後は、抱き合ったまま、しばらくは動かなかった。
 …いや、オレは動けない。
 頭がぼ~っとしてしまっているし、下半身なんかマヒして、自分の体じゃないような感覚になっている。
 だからイヤだったのに…。
 一度欲望を出すと、妙に冷静になってしまうのが悲しい。
 けれどオレの首元に顔を埋めている利人の頭を、優しく撫でる。
 初めてセックスをした後、利人がオレにしてくれたように。
「…ねぇ、雅夜」
「ん~?」
「一年もあれば、身辺整理できますよね?」
 余りに唐突な言葉に、頭を撫でる手が止まる。
「…えっ?」
「と言いますか、一年も必要ないでしょう?」
 顔を上げた利人の表情は、あの悪魔の笑みを浮かべていた。
 蕩けてしまいそうなほど甘く、そして毒の含んだ笑みを。
「お前…何言ってんだ?」
「あの子会社の営業成績、かなり悪いの知っています? 全ての子会社を調べて分かったんですけど、ワースト3に入るぐらい悪いんですよ」
「それは知ってる…」
 事務なんてやっていれば、特に会社の内情には詳しくなる。
 親会社が大手なせいか、その上にあぐらをかいているようなもんだからな。ウチの会社は。

狂恋・5

「ああ…。この十年で、結構変わってしまいましたね。雅夜」
「お前の方が、変わっただろう?」
「そうですか?」
 ハーフの恐ろしいところは、成長が凄まじいところだと思う。
 高校時代はまだ少年っぽさが残っていたのに、今では一人の男になってしまったんだから。
 …しかもフェロモン倍増で。
「雅夜、愛していますよ。もう二度と、私の目の前から消えないでくださいね?」
「ああ」
 利人はメガネをサイドテーブルに置くと、ゆっくりオレにかぶさってきた。
 十年ぶりに重なる唇。
 少し冷えていて、それでいて口の中から甘さが広がる。
「んっ…」
 懐かしい感触に思わず手を伸ばし、利人の背中に回した。
「んんっ…雅夜…、愛してますよ」
 何度も角度を変え、弾むようにキスをしてくる。
 自然と口が開き、スルッと利人の舌がもぐりこんでくる。
「んあっ…!」
 甘い痺れが腰にくる。
 久し振りに味わう利人の味は、ハチミツよりも甘くて、蕩けそうになる。
 舌のザラザラした表面や、ヌルヌルした裏に触れるたびに、腰が何度もはね上がる。
「んっ…ちゅっ。利っ…人」
 腰が浮かぶたびに、利人の熱い欲望に触れる。
 オレ自身もすでに熱く硬くなっている。
 すでにお互いの欲望に火が付いてしまっている。
 こうなればもう止められないことを、オレは知っている。
 だからもうガマンせず、利人に強くしがみつく。
 十年前まではつけていなかった利人の香水の匂いに、目が眩む。
 フェロモンと合わせて、とんでもない威力を発しているなぁ。
「ふふっ。久し振りだと、燃えますね」
「十年前に若返った気分になるな」
「十年前はこんなに余裕なんてなかったですよ。あなたがすぐに欲しくて、たまらなかったんですから」
 利人はオレの左手を掴み、薬指に口付ける。
「今度、ジュエリーショップに行きましょう」
「ペアリングでも作るつもりか?」
「いいえ、結婚指輪ですよ」
 …どちらも似たようなものだが、明らかに後者の方が拘束力はあるな。
「あと首輪も作りましょうか?」
「えっ?」
 サッと顔から血の気が引く。
「今度逃げ出したら、首輪で繋いで飼ってあげますよ。一生、ね?」
 満面の笑みで言われても、全身が鳥肌を立つのは止められないっ!
「にっ逃げない! もう二度と逃げないからっ!」
「信じていますよ?」
 頭を何度も縦に振ると、ようやく左手は放された。
 そしてゆっくりと利人の頭がオレの胸へ下りてくる。
「ふぁっ…」
 胸の突起を舌で舐め上げられて、自分でも信じられないほど甘い声がもれた。
「雅夜の喘ぎ声、久し振りに聞くとゾクゾクしますね。それに胸の感触も久し振りだと…」
 言葉を紡ぐよりも、胸の愛撫に集中しだした。
「んんっ、あぁ…!」
 舌では乳首を舐めながら、利人の手はオレの下肢へ伸びる。
 そしてオレの膨れ上がった欲望に触れてきた。
「ちょっ…おいっ!」
 慌ててその手を払おうとしたが、もう片方の手で逆に押え付けられてしまった。
「今更照れることないでしょう? さんざん可愛がってあげたところなんですから」
「いっ言うなっー!」
 確かに高校生時代、利人にさんざん触られたり舐められたり、イジワルされたりした。
 思い出すだけで顔に血が上る。
「良い反応してくれるんで、思わずいじりたくなっちゃうんですよね」
 どういう理屈だっ!
 しかしオレの心の叫びなんか聞いちゃいない利人は、そのままオレのを扱き始める。
「んあっ…」
 すでに利人によって、オレの体は変わってしまった。
 コイツに与えられること全てを喜んでしまう体に…。
 優しい手付きだと感じていると、いきなり強く扱かれ、腰が浮く。
 それと同時に胸の突起を強く吸われ、イキそうになるっ!
「利っ人…! そんな、強くしたら…」
「ああ…すぐにイってしまいますか?」
 ニヤッと笑い、利人は唇も手も放した。
「えっ…?」
 さっきまで快感に溺れていた体が急に解放され、熱が中途半端になる。
「今日は一緒にイキましょうね」
 そう言って利人は上半身を起こし、サイドテーブルに手を伸ばした。
 そして戻ってきた手の中には、小さなビンが握られていた。
 ピンク色の液体が入っていて、ビンには紫の模様が入っている。
 それを眼にした途端、オレはズサッと後ろに引いた。
「おまっ、それっ…!」
 呂律が回らないので、震える手でビンを指さす。
「覚えていましたか。ええ、媚薬入りの香油ですよ」
 ゲッ!
 高校時代、初めての時に使われた。
 外国から取り寄せたという怪しいこの液体は、本当にとんでもない効果を発揮する。
「まっ待て待て! それはもう二度と使わないって言っただろう?」
 初めてのセックスの時に使われ、その効果を自分の体をもって思い知ったオレは、二度と使わないように利人に言った。
 それからは国内で売られている普通の(?)ローションとかジェルとかを使っていたのに!
「今日は久々ですしね。初めての時の気持ちを思い出してほしいんですよ」
 そう言って美しく微笑みながらビンを開けて、中身を手のひらに流す。
 コイツッ! 予想以上に怒っていやがった!
 アレだけオレが拒絶したにも関わらず、コレを持ち出してきた。
 この香油は媚薬成分が強くて、使われるとプライドも何もかもが溶けて、ただ体の快楽だけを求めてしまう。
 香油なだけに滑りが良くて、初めてだったのに痛みはなかった。
 それに媚薬のおかげかせいで、恐怖心も薄れはしたけれど、二度とお眼にはかかりたくない物だったのに!
 身の危険を察して、オレは利人から離れようとした。
「どこへ行くんですか?」

狂恋・4

「だからそれじゃダメなんだっ!」
「何がダメなんですか? お互い愛し合っているのなら、何の心配も不安もないはずです」
 利人の強い意志がこもった声に、思わず甘えてしまいそうになる。
 だけど…甘えちゃダメだ。
 十年前と、同じことを繰り返してはいけない。
「オレは…いや、オレがダメなんだ」
「雅夜の何がダメなんです?」
 利人は両手をオレの肩から頬に移動させ、間近で優しく微笑んで見せた。
「私は雅夜の全てを愛しています。弱さも、ズルさも、ね」
「利人…。お前、まさか…!」
「ええ、知っていましたよ。雅夜がはじめは私のことを、本気で愛していなかったことを」
 その言葉に思わず眼が丸くなる。
「知ってて付き合ってたのか?」
「一緒にいれば愛してくれることが分かっていたからこそ、付き合っていたんですよ。事実、雅夜は私のことを愛してくれたじゃないですか」
 何てこった…!
 利人には全て見透かされていたのか。
「…ならオレの本心も分かっているんだろう?」
「罪悪感を感じていることは、薄々気付いていました。しかし突然去ってしまうなんて、思わなかったんですよ」
 そう言って苦笑する。
「いつかは罪悪感も消え去るだろうと、楽観視していたのは悪かったとは思います。ですが何の相談も無く、消えることはないじゃないですか」
「言えるはず…なかった。お前の本気が分かるたびに、口が重くなっていったんだよ」
「そうでしたか。私は少し、あなたを追い詰めすぎましたね。すみません」
 謝るのはオレの方なのに…。
 利人に優しく抱き締められると、何も言えなくなってしまう。
「ですが今でも両想いなら、それこそその罪悪感を『若さゆえの過ち』にしてくれませんか?」
「罪悪感を?」
「ええ。キッカケはどうであれ、今、雅夜は私を愛してくれている。なら良いじゃないですか」
「だけど…」
 それは勝手過ぎるんじゃないか?
「私が良いと言っているんです。それに…あなたのその気持ちを分かっていて、利用しようと考えた私にも非はあります」
「利人…」
 利人は顔を上げ、額と額を合わせた。
 間近で見る穏やかな笑顔に、泣きそうになる。
「どんな感情でも良かったんですよ。雅夜が私を見てくれたのならば。最終的には本当の恋人になれたんですから」
「終わり良ければ全て良しってか?」
「ええ。父の好きな言葉です」
 …と言うことは、コイツは外見は母親似だが、中身は父親似ということか。
 まあ腹黒くなければ、会社もあそこまで大きくはなるまい。
「ではお互いの気持ちを確かめた上で、恋人関係は続行で良いですね?」
「良いもなにも…。お前、オレが何を言ったって聞かないだろう?」
「それは雅夜が嘘を付くからですよ」
 いや、それ以外にも…って考えるだけムダか。
 オレを十年以上も追いかけてきたヤツには、何を言ったってムダだ!
「さて。では気持ちの次は」
 額を離すと、オレの手を掴んだ。
「体の方も、確認しますか」
 ぎくっ。
「かっ体って、どういう意味だよ?」
「この十年間、浮気をしていなかったどうかの確認です」
 そう言う利人の表情は笑顔だが、眼は全く笑っていない。
 背中に悪寒が走る。
「いっいや、浮気なんてしてない。男も女も」
「だからそれを確認するんです」
「信じろって! それにこういう場合、また友達関係からはじめるもんだろ!」
「二十八にもなって、何を純情めいたことを言っているんですか?」
「恋愛は純情じゃないのか!」
「そんなのとっくの昔に卒業したじゃないですか」
 グイグイ引っ張られ、ベッドルームへ引きずり込まれる。
「りっ利人の方こそどうなんだよ? お前なら、男も女も黙っちゃいないだろ?」
「私は雅夜以外の人間に恋愛感情を持たれても、気持ち悪いだけです」
 笑顔でサラッと恐ろしいことを言いやがった…。
「ベッドは大きめのを買ったんですよ。二人で寝るには、大きい方が良いと思いまして」 
 …そしてやっぱり人の話を聞いていない。
 うんざりしながらベッドを見て、口がパカッと開いた。
「…コレはいわゆる、キングサイズというヤツか?」
「そうですね。確か商品の説明文にもそう書いてありましたね」
 金持ちしか泊まれないホテルにでも置いてありそうなサイズと豪華さを兼ね備えたベッドが、部屋の中心に置かれていた。
 コイツの実家のベッドもそこそこ大きかったが、これは異常だ!
「高校生ならともかく、社会人にはこのぐらい必要でしょう?」
 …いや、利人自身が異常だったな。
「必要か? このサイズ」
 もっと小さくても良い気がする。
 大人が五人並んで寝ても、ベッドから落ちるということはなさそうなサイズだ。
 ベッドをグイグイ押してみると、信じられないぐらい肌触りが良く、弾力も良い。
「必要ですよ。特に激しい運動をするには、ね」
 肩をどんっと押され、ベッドの上に倒れた。
「利人っ! いきなり何する!」
「もたもたして、逃げられるのはもう二度とカンベンですからね」
 そう言いながら背広を脱ぎ捨て、ネクタイをゆるめる。
 思わず背筋に甘い痺れが走った。
 高校生時代、一度体の関係を持つと、後は暴走しまくっていた。
 利人はどこでもオレを求めてきたし、オレも利人を求めていた。
 連休中には利人の父親が経営する海外のホテルに泊まり、最上階のロイヤルスイートルームで何日も体を重ね合わせた。
 幸せだった。
 お互いの愛が深まることが、心の奥底から喜びと感じられた。
 それは今でも変わらないはず。
 だけど…。
「…やっぱり久し振りだと、気恥ずかしいというか、少し怖いな」
「大丈夫ですよ。できるだけ、優しくしますから」
 『できるだけ』?
 オレが不安に感じている間に、利人は自分の服を全て脱ぎ捨て、オレのスーツも脱がせた。

狂恋・3

 利人は当時から注目されてて、反対にオレは普通の生徒だった。
 同じクラスにもなったことがなければ、委員会も部活も違っていた。
 お互い、縁なんて無いにも等しかった。
 なのに利人は高校二年の夏、いきなりオレに告白してきた。
 最初は何の罰ゲームなのかと、心底疑った。
 けれど利人は本気でオレと恋人になりたいと言ってきた。
 高校の入学式でオレを見た時から、一目惚れをしてしまったと…。
 それでオレは…学校で人気があるコイツと恋人になるというのに興味が出て、つい告白を受けてしまった。
 そう、暴走してしまったんだ。
 その後、まずは友達付き合いからはじまった。
 お互いのことを、何も知らなさ過ぎだったから。
 友達としての付き合いは最高だった。
 利人は優しかったし、気も利いた。それにオレを大事にしてくれた。
 それがとても嬉しかった。
 だから…利人に『抱きたい』と言われた時も、そんなに迷わず頷けた。
 初めて身も心も結ばれた時、利人はさっきの言葉をオレに言った。
「私は将来、父の会社を継がねばなりません」
「知ってるよ。オレが邪魔になったら、すぐに捨てていいから」
「バカなこと、言わないでくださいよ」
 ぐったりと横たわるオレの頭を、利人は優しく撫でた。
「私はあなたを諦めるつもりはありません。会社もあなたも、両方を手に入れてみせますよ」
「自信家だな」
「知りませんでした? 恋は人を強くするんですよ」
「それは知らなかった」
 ベッドの中で二人、笑いあった。
「じゃあ見ててください。絶対に成功させてみせますから」
「ああ。楽しみにしてる」
 …その時のオレは、利人を信じていた。
 素直に、信じられた。
 だけどオレは…。
「…何があなたを不安にさせたんですか? 誰かに言われました?」
「言われて無い。大体、オレ達の関係は周囲には秘密にしてただろ?」
 公にはできなかったし、するつもりもなかった。
「ならどうしてっ…!」
 痛いほど真剣な利人の眼を、見ることができない。
 真実を告げれば、余計に傷付ける。
「さっき言った通り、将来に不安を感じたからだ。お互いの為だろ?」
「そんなの嘘ですね」
 あっさり見抜くなよ…。
 険を含んだ眼差しで、利人はオレを見る。
「それならば十年前、ハッキリと私に言ったはずでしょう? けれどあなたは何も言わずに去った。同じ大学に行けるとばかり思っていたのにっ!」
 大学は利人と同じ所を受けた。
 受験はした。そして合格した。
 けれどもう一つ、海外の大学も受験して、合格していたことを利人には言わなかった。
 そしてオレは高校を卒業した後すぐ、黙って海外へ一人で行った。
 …そのことを利人が知ったのは、大学の入学式。
 大学で待ち合わせをしていたのに、オレが現われないことを不思議に思って、知り合いに連絡をして、ようやくオレに裏切られたことを知った。
 オレはその後、携帯電話を変え、番号もメアドも全て変えた。
 そのことを両親以外には誰にも告げなかった。
 利人にだけは、知られたくなかったから。
 そして大学を卒業した後、日本に戻って来た。
 けれど地元には帰らず、遠いこの土地に来て就職した。
 だけどその間ずっと、利人はオレのことを探していた。
 分かっていながら、オレは連絡しなかった。
 …終わらせてほしかったんだ。
 恋人なんて関係は。
 いや、終わってほしかったんだ。オレが。
「…十年前、お前に何も言わず去ったことはオレが悪かった」
 けれど何も言わずに去ったのは、卑怯としか言い様がないことも分かっていた。
「お前のことが嫌いになったとかじゃなかったんだ。だから真正面から別れは告げられなかった」
 だけど今なら言える。
「終わりにしよう。若さゆえの過ち、暴走だったと思ってさ」
「思えるわけがないでしょうっ!」
 利人は声を荒げ、立ち上がった。
 そしてオレの肩を掴み、真正面からオレの眼を見る。
「どうして本当のことを言ってくれないんです? あなたは嘘ばかりついている」
「それ、は…」
 言えない、からだ。
 お前と恋人関係になることを選んだのは興味本位からであって、真剣には考えていなかったことを。
 そしてセックスさえも、興味があったからしたなんてこと…口がさけても言えやしない。
 最低だった。
 本気で恋愛をしていたとは、言えない。
 けれど利人と共に過ごす時間が増えるうちに、だんだんと本気になっていった。
 利人が本気でオレのことを愛してくれているのが分かってきた。
 だからこそ、罪悪感ができてしまった。
 最初から本気で恋人になることを考えていなかった自分がイヤで、自分自身を嫌いになっていた。
 利人に惹かれていく強さで、自分のことを嫌いになった。
 その気持ちに押し潰されそうになって、ガマンができなくなって、利人から逃げた。
 そんなオレの気持ちを知られたくなくて、あえて黙って消えた。
 今もその気持ちがあるんだから、十年経ってもオレは成長していない。
「利人のことは…今でも愛してる」
 オレは真っ直ぐに利人の眼を見て言った。
「っ! 雅夜…」
 利人の動揺が、掴まれている肩から伝わる。
「けれどお前のこと、同じ強さで怖いとも思っているんだ」
「怖い? 私が?」
「はっきり言ってしまえば、愛が重過ぎるんだ。オレには耐え切れない」
「それが…本音、ですか?」
「…ああ。だから何にも言えなかった」
 コレも本音だ。
 利人がオレを深く愛してくるたびに、そして求めてくるたびに、恐ろしさを感じていた。
 それはきっと、罪悪感から感じたことだろうけど…コレは言えない。
「…だけど今でも私を愛してる。それは十年間、変わらなかったんですよね?」
「それはっ…!」
 そう、だけど…。
「それじゃあ恋人を止めることはないですよ」
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sakura

Author:sakura
 現在はフリーシナリオライターとして活動しています。活動記録を掲載していきたいと思っています。「久遠桜」の名前でツイッターもしていますので、よければそちらもご覧ください。仕事の依頼に関しては、メールフォールでお尋ねください。

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