BL・<うそでも良いから欲しい言葉>・後編

2012.04.01(05:16)

「…今日はエイプリルフールだからな!」
 腕を放し、彼は顔をそむけた。
「あっああ、そうですね」
「いつも苦労をかけている副会長に、礼の一つもしようと思ってな」
 …そう言う彼の顔は、笑っているのに泣きそうだ。
 体も小刻みに震えているのが、見ているだけでも分かる。
 僕は簡単に言える言葉だけども、彼にとってはこんなに苦痛を与えてしまう言葉だったのか…。
 反省しなければ、な。
 ここまで彼を追い込んだのは他でもない。
 僕なのだから…。
「…ありがとうございます。おかげで残りの学生生活も楽しく過ごせそうですよ」
「そっそっか」
「ええ。…用事は以上ですか?」
「あっああ…」
 しばしの沈黙の後、僕は音もなくため息を吐いた。
「それでは、次にお会いするのは生徒会の会議ですね。あまり遅くならないうちに帰ってくださいね」
「おいっ! 待てよ!」
 踵を返し、帰ろうとした僕の手を、彼が掴んだ。
「はい、何でしょう?」
「何でしょうって…。他に言うこと、無いのかよ? お前が望んでいた言葉だろう?」
 確かに僕は、彼に「好きだ」と言ってほしかった。
 ウソでも良いからと。
 …でも結局、彼に辛い思いをさせただけにとどまってしまったことを、後悔していた。
「ウソでも嬉しかったですよ? ただちょっとビックリしただけです。本当に願いを聞き入れてくださるとは思わなかったもので…」
 だけど言ってくれた彼の心は、嬉しかった。
 だから上手くは笑えないけれど、笑みを浮かべる。
「だっだから…。俺が言ったことに、お前はどう反応するんだよ?」
「えっ? …えっと…」
 礼は言った。リアクションも取った。
 後は…。
 …お返しのウソ?
 確かに一方がイベントをしたのに、もう一方は何もしないというのは、キツイだろう。
 だったら…良いウソがある。
 僕は真っ直ぐに彼の眼を見つめた。
「ウソ、ですよ」
「何が?」
「あなたを好きだというのは、ウソです。本当はキライですよ、あなたなんて」
 イヤというほど僕の気持ちを知っている彼なら、笑い飛ばしてくれるだろうと思った。
 けれど次の瞬間、彼の顔は真っ赤になった。
「ふっふざけるな!」

ガッ!

「うっ…!?」
 なっ殴られた? なっ何故!?
「どっどうして殴るんですか? お返しのウソをついたのに!」
「言って良いウソと悪いウソがあるだろう!」
「あなただって、本当なら許されないウソついたじゃないですか! 僕の気持ちが変わらないのを、知っているはずでしょう?」
「えっ? 変わらない?」
「変わりませんよ! 変わるはずないでしょう? だからあなただって、あんなウソを言ったんでしょう!」
「そっそれは…」
 …何なんだ? 最近、彼の様子がおかし過ぎる。
 この間、エイプリルフールのことを話題に出してからだと思うが…。
 アレはあくまでノリだと感じていた。
 告白ぶりに交わした言葉だったから…信じていないんだと思っていた。
 …いや、避けられたと感じた。
 しかし目の前の彼は、言いづらそうに視線をさ迷わせながら、何度も口を開けたり閉じたりしている。
「おっ俺がお前のこと、どう思っているか分かっているのか?」
「『好きではない』と言われ続けていますが…。ようは『嫌いでもない』と言う意味ですよね?」
「…ああ、嫌いじゃない。だけどお前は俺が『好き』だと言ったら…!」
「変わりませんよ。僕があなたを好きなことは、変わりません。…ご迷惑になっていることは、自覚していますが…」
「めっ迷惑だったら…」
「はい」
「…いつまでも側に置かない」
「えっ?」
「だから! 俺は本当に迷惑だと思っていたら、側には置かないんだ!」
「そう…ですか」
 …でも彼が僕を思う気持ちと、僕が彼を思う気持ちの種類が違うことには変わりない。
「俺がお前のことを『好き』と言ったら…お前が離れそうな気がした」
「そんなことっ…ないですよ。逆に今以上に、離れられなくなるだけです」
「それならっ!」
 いきなり掴んでいる手を引っ張られ、顔が間近に迫った。
「ずっと言い続けていろよ。俺のことを『好き』だと」
「でもそれは…」
 彼にとっては苦痛なのではないのか?
「ずっと俺の側で、言い続けていれば…」
「…愛してくれますか? 僕のことを」
 僕は掴まれている手を、強い力で握り返した。
「それはまだ…分からない。でも今はとりあえず、お前が俺の側から離れるのがイヤだな」
「そう、ですか。なら、今はそれでも構いません」
 彼が誰より側に置きたいと思えるのが僕自身ならば、今はそれだけで構わない。
 いつか気持ちが溢れ出し、また彼を困らせることになるかもしれないけど…その時はその時だ。
「うしっ! 何かスッキリしたし、昼飯食べに行くか」
「まだ食べていなかったんですか?」
「お前を待ってたせいでな。すっかり夕方だ」
 確かに窓の外は夕日の色に染まりつつあった。
「せっかくだから、花見に行くぞ! 待たせた罰として、お前のオゴリな!」
 そう言って嬉しそうに僕の手を引く彼を見て、思わず笑みを浮かべた。
「…分かりました。気の済むまで食べてください」
「おうよ!」
 楽しそうに屋台のことを語り出す彼を見つめながら、ふと一つの言葉が思い浮かんだ。

『嘘から出た実』

 ―嘘のつもりであったものが、結果的に、はからずも真実となること―
 …彼のあの言葉が、いつか現実となることを、願わずにはいられない気持ちだった。


<終わり>

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BL・<うそでも良いから欲しい言葉>・前編

2012.03.31(19:34)

あらすじ
 エイプリルフールに僕は彼から言ってほしい言葉がある。それは…。
 僕には好きな人がいる。
 その人は同性で、僕の思いを知っていた。
 そして―拒絶された。
 だけど4月1日に、彼に言ってほしい言葉がある。
 うそでも良いから、彼に…。
 ★BLです。


『望むうそ』
「一つ、お願いを聞いてもらっていいですか?」
「何だ?」
「4月1日、エイプリルフールに言ってほしい言葉があるんです」
「…お前、いい加減にしろよ」
 目の前にいる彼は、うんざりした表情でため息をつく。
「俺、お前のこと、好きじゃない」
「知っていますよ?」
 あなたが僕のことを嫌っていることぐらい、分かっている。
 それだけ近くにいるから。
「なら諦めろ」
「…別にまだ、何も言ってないじゃないですか」
「予想がつくんだよ。俺はお前のことが好きじゃない。ならわざわざウソをついて良い日に言ってほしい言葉なんて、一つしかないだろう」
 相変わらず妙なところで勘が働く。
「いいじゃないですか。たった一言なんですから」
「イ・ヤ・だ」
「一瞬ですよ?」
「断る」
 頑固だなぁ。
 でもまあそんなところも…。
「おいっ! 今、変なこと考えなかったか?」
 …思うことぐらい、許してほしい。
「いえ、別に」
「答えるのが一瞬遅れたな?」
「気のせいですよ。それより一応、考えておいてくださいね。エイプリルフールのこと」
「お前な…。…そもそもその言葉を俺がお前に言ったら、どうなるんだ?」
「ウソでも良いんです。あなたの口から言ってほしい言葉ですから。その一言さえあれば、もう何もいりません」
 …と言うのは、半分ウソだった。
 愛おしい人が近くにいるのに、何も望まないということはできない。
 でもその一言はとても重くて、大事だ。
 だからその言葉さえあれば、これから気持ちを抑えることができそうだと思った。
「…もう二度と、俺に好きだと言わないつもりか?」
「どうでしょうね? 実際言われてみないと、次の行動がどう出るか、自分でも分かりません」
「あのなぁ~。…あ~! もう良い! 俺は帰る!」
「はい、お疲れ様でした。また明日」
「じゃな!」
 彼は足音高く、部屋から出て行った。
 …ヤレヤレ。
 僕のことが嫌いならば、わざわざ2人っきりになることもないのに。
 時は夕暮れ。
 場所は都内にある高校。偏差値が高いことで有名だ。
 その高校の生徒会室が、今、僕と彼がいた場所だった。
 彼は生徒会長、僕は副会長だった。
 彼は僕の世界を変えた人。
 僕は成績は良かったものの、人付き合いが苦手だった。
 だから仲の良い友達が1人もいなかった。
 でも別にイジメられていたワケではない。
 一定の距離を保って、友人関係は築いていた。
 しかしある日、そんな平和な日常を彼が壊した。
 彼は生徒会長の座を狙っていた。
 そこで成績優秀者である僕に声をかけてきた。
「一緒に頂点、登らないか?」
 と。
 そして半ば強引に、彼の選挙活動を手伝うようになった。
 彼は見事に会長の座についた。
 そして僕は副会長に。
 その頃にはもう、自覚していた。
 彼に惹かれていく自分に。
 だからある日の放課後、思いきって彼に思いを伝えた。
 だけど彼は思いっきり顔をしかめ、一言。
「―俺はお前のこと、そういうふうには思えない。いや、一人の人間としては尊敬できるヤツだし、俺の片腕としては信用もしている。だけど恋愛感情としては…好きじゃない」
 困ったように、泣きそうな顔で言われた。
 だから僕は苦笑し、
「分かりました」
 と、彼の返答を受け入れた。
 だからその後、自分の思いを口に出すことはなかった。
 それから数ヶ月の時が過ぎ、春休み、生徒会の集会の後で、言い出したことだった。
「ウソでも良いんだけどな…」
 もうすぐエイプリルフール。
 ウソをついても良い日というのは、僕にとっては好都合だった。
 彼にとっても都合がいいと思ったんだが…やっぱり難しいか。



 なので4月1日は、1人で出かけることにした。
 大学受験も始まるので、電車に乗って塾の下見に行った。
 3つの塾を回ったところで、すでに昼過ぎになっていた。
 コンビニで昼食を買って、公園で食べようとした時、ケータイが鳴った。
 表示を見ると…彼からだった。
「はい、どうしました?」
『どうした?じゃないだろう! どこにいるんだ! お前!』
「えっ? どこって、外です。外出しています」
『地元にいないのか?』
「ええ、塾の下見に街中まで来ましたから」
 彼の興奮した声に、少し驚いた。
 あまり動じない性格だと思っていたから。
「それでどうしたんです? 生徒会の仕事のことですか?」
 彼と僕の共通点は、そのことぐらいしかない。
 あの告白後から、彼からは一定の距離を置かれているから。
『…ああ、まあな。今から帰って来れるか?』
「用事は全部済ませましたので戻れますが…。時間がかかりますよ? 急用なら、今伝えてもらえれば」
『いいからとっとと帰って来い!』

 ブチっ!

「っ!?」
 いきなり電話を切られた。
 なっ何があったか分からないが、とりあえず急いで戻ろう!
 …と思っても電車の都合があり、学校へ着いた時には1時間が経過していた。
 怒っているだろうか?
 あの電話の調子では…怒っているな、確実に!
 何はともあれ、生徒会室へ向かった。
 春休みでも部活動は行っており、しかし私服は目立った。
「会長? 遅くなってすみません。どうかしましたか?」
 生徒会室の扉を恐る恐る開けると、予想に反して、落ち込み気味の彼が、制服姿で座っていた。
「…遅い」
「すみません。電車の時間が上手く合わなくて…。ところで何があったんです? 今日は生徒会の用事は無い日だと思っていたんですけど…」
 もしかして、春休みだからと生徒達が問題でも起こしたのだろうか?
 落ち着かない気持ちで、彼の側へ寄った。
 すると彼はいきなり立ち上がった。
「うわっ!?」
 驚いて後ろに下がるも、腕を引っ張られ、顔を近付けてきた。
 そして彼の薄く開いた唇からこぼれた言葉は…。
「好きだ」
「…えっ?」
 眼を見開いた。
 今…あの言葉が聞こえた。
 彼の口から、ハッキリと。


BL・<うそでも良いから欲しい言葉>

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