「Boys Summer Love!」・14

「んっ…?」
 由月は僕を片手で抱き締めたまま、もう片方の手を伸ばし、机の上からファイルを取った。
「ちょっとコレ、見てくれよ」
「何? コレ」
 僕は受け取り、ファイルを開いて見た。
 内容はここら辺の土地のことだった。
 昔、温泉や金が出たという歴史の一覧表もある。
「…コレ、由月が研究しているの?」
「ああ。昔の資料とか出してさ、まとめてみたんだ」
「ふぅん。分かりやすいし、良いと思うよ」
「そっか。それでオレ、温泉や金を探してみようかと思うんだ」
「へぇ…って、はい?」
 思わぬ言葉に、思わず眼が丸くなる。
「探すって…温泉や金? でも取り尽してしまったんじゃ…」
「でもアレから何十年も経っているし、まだ探していない所も多いんだ。地質によっては、また金や温泉が出る所があるかもしれない」
「そうかもだけど…お金持ちになりたいの?」
 後継者にはなりたくないことは知っている。
 だから考えつくことなんて、それぐらいしかない。
「まあな。金があれば、雅貴を養えるだろう?」
「あっ」
 五年前に由月が言っていたことか。
「でっでも本当に出るとは限らないんだろう?」
「まあな。でも大学を卒業するまでは探してみようかと思ってる。だからそれまでは待っててくれよ」
「あっあのねぇ」
 いろいろと言いたいことはあったけど、自信ありげな彼の顔を見ていると、何にも言えなくなってしまう。
 良い笑顔するようになったな。
 僕はため息をついた。
「じゃあそれまでは、半人前だね」
 だから僕も笑って見せる。
「まっ、それはしょうがないな。見つかるまでは、何を言っても半人前だし」
「物分りが良くなって嬉しいよ」
「抜かせ」
 僕は由月を畳の上に押し倒した。
「すぐに逆転してやるからな」
「ははっ、楽しみにしているよ」
 僕はファイルを置いて、由月の頭を撫でた。
 …見つからない…とは思う。
 けど、もしかしたらという思いもある。
 由月なら、成し遂げそうなのが怖い。
 そしてその時、逆転されるのも…いろんな意味で怖かった。



 けれどそれから3年後、由月は本当に見つけてしまった。
 温泉と金を。
 おかげで村は大変賑わい、由月は有名人となった。
 そして温泉と金を発見したことを盾にして、二番目のお姉さんに後継者の座を本当に譲り渡してしまった。
 伯父は物凄く何か言いたそうにしていたけれど、すでに由月の方がいろいろな意味で上になっていた。
 そして僕はと言うと、教師を続けていた。
「約束違反だ、雅貴」
「人聞きの悪いこと、言わないでくれよ。若い教員が僕1人しかいないのに、いきなり辞めるわけにはいかないだろう」
 由月の部屋で、僕は彼に恨めしげな顔をされていた。
「…分かった。なら他の所から若いのを引き抜いてくる。大金を積めばいくらでも来るだろう」
「由月、それ悪者のセリフ…」
 由月は僕が教師を辞めないことに、不満を持っていた。
 でも僕だって、25になって無職は嫌だった。
「まあ教師は辞めてもらうとして」
 ぎくっ★
「逆転のことは、実現させてもらうぞ」
 やっやっぱり話はそっちにいくのか。
 ぐいっと手を引かれ、由月の腕の中に捕らわれた。
「ずっと待ってたんだからな」
「あはは…。執念深いね、由月」
「小学一年のオレに、一目惚れし続けたお前が言うことか?」
 ああ、それを言われると…。
「あっ、ねぇ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「何だよ?」
「由月はいつから僕のこと、好きになってくれたの?」
 少なくとも、中学生の頃には恋愛感情になっていたと思う。
 じゃなきゃ、キスしてこないはずだし。
 改めて聞くと、由月の顔がカッと赤く染まった。
「…えっ?」
 この反応はもしかしなくても…。
「由月も…一目惚れしてくれた、とか?」
「なっ…!」
 ああ、この反応は本物だ。
 由月もあの日、あの時、僕を好きになってくれたのか。
 好意を寄せられていると感じていたことは、どうやら自惚れではなかったと、一安心。
 でもお互い15年間も同じ人を好きでい続けたなんて、スゴイことだと改めて思う。
「~~~っ! …雅貴がマヌケにもすっこけなきゃよかったのに…」
 うっ! たっ確かにはじめて出会った時、僕は転んでしまったけど…。
 まさかアレで一目惚れされたのか?
「何か頼り無さそうだと思ってたら、実際そうだし…。オレが守らなきゃと思ったのが間違いだった」
 そう言うも、僕を抱き締める腕の力は強くなるばかり。
「ははっ。僕は由月の美しさに一目惚れしたよ。こんなキレイな子の側にいたいって、強く思ったんだ」
「雅貴…」
「愛しているよ、由月」
 僕も強く由月を抱き締める。
「もう絶対離れないから…」
「ああ、側にいろよ。オレの側に、ずっと…」
 絡まりあう視線。
 引き合うように、合わせた唇。
 これからもいろんなことが、たくさんあるだろう。
 けれど由月が側にいてくれるなら、2人ずっと一緒なら、何だって楽しめる気がする。
 あの夏、はじめて由月と会ってから、願っていた。
 ずっとこの夏が続けばいいのに…と。
 2人でいられる時が、永遠であれば良いのにと。
 その願いは叶えられ、そしてこれからも続く。
 2人の永久の夏は、まだまだ長い。



<END>
★今まで読んでくださって、ありがとうございました!
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「Boys Summer Love!」・13

 二番目の従姉は伯父と争ってても埒があかないと悟ったらしい。
 最近では後継者のような働きをしている為、周囲の人間は二番目の従姉を後継者にと言い出しているみたいだ。
「由月ちゃん、大学生になってから、かなり大人になったわよ。アンタ、成長追い抜かれているわね」
「うっ…。それは怖いような楽しみなような…」
 時々由月の写メが送られてきたけど、見るたびに大人っぽくなっていった。
 逆転は…本当にありえるかもしれない。
 四年前までは一応僕がアレだったけど…元々由月の方がしっかりしているしなぁ。
「それにとってもカッコ良くなったの! もうここら辺の女の子は、由月ちゃんに夢中よぉ」
 …それでも『ちゃん』付けは直らないんだね、母さん。
 僕は四年ぶりに会うことが、楽しみで怖かった。
 最後に会った時、まだ中学生だった。
 彼は子供だった。
 最後の年にはずっと甘えられた。
 引っ付いて離れなかったと言っても過言じゃないぐらい。
 外にもほとんど出ず、部屋の中ばかりで過ごした。
 部屋の中では…親には言えないことばかりしていた。
 …お互い、受験生だったのに。
 今思い出しても、顔から火が出そうだ。
 邸に着くと、伯父と伯母が出迎えてくれた。
 相変わらずの大家族。
 でも今日からは僕の家になる。
「よく来てくれたな、雅貴くん」
「今日からよろしくね。自分の家だと思って、ゆっくり甘えてくれていいから」
「ありがとうございます。伯父さん、伯母さん」
 僕は2人に頭を下げた後、由月の部屋へ向かった。
 しかし、足取りは重い…。
 自分より成長することだろうとは予想していたけれど、あっあんまり変わっていると、ショックだな。
 僕の中では、由月はまだ幼くて可愛い存在だったから。
 でも…男の子は成長するもんだしなぁ。
 あっ、何か涙出てきたかも…。
 フラフラしながら由月の部屋の前に来た。
 僕の部屋は由月の隣にしてもらった。
 けれどちょっと失敗だったかな?
 成長した由月に迫られては、逃げようが無い気がする。
「―何つっ立ってんだよ? 雅貴」
 すっかり声変わりをした由月の声が、襖越しに聞こえてきた。
「相変わらず、足音だけで分かるんだね。由月」
 僕はそう答えて、襖を開いた。
 部屋の中はあまり変わっていなかった。
 けれどそこの住人は大分変わっていた。
 立派な一人の青年に成長していた。
 分かっていたことだけど…。
「寂しいもんだね…」
「何がだよ?」
 黒い浴衣を着ている由月は、すっかり昔の面影は無かった。
 最近の言葉で言うと、肉食系の野性味のある青年へ成長してしまったのだ。
「僕の可愛い由月が、こんなに立派になるのがだよ」
「だれが可愛かったんだよ! 相変わらず変なこと言うヤツだな」
 ムキになりやすいところは変わっていない、と。
「雅貴はあんまり変わってないみたいだな」
「最後に会った時、僕はもう18歳だったからね。アレから少しぐらいしか成長していないよ」
 身長ももう止まってしまったし、今では彼の方が高いだろう。
「まっ、今日からよろしく。約束通り、ちゃんと教師として赴任してきたから」
「ああ、本当に守ったんだな」
「言ったろう? 僕はキミを守れるぐらい強くなって、ここに戻って来るって」
「お前の可愛い由月じゃなくてもか?」
「外見は変わっても、中身は可愛いままだよ」
「お前…言うようになったな」
「多少、強くなっただけだよ。でも…」
 僕はゆっくりと彼を抱き締めた。
「四年間の我慢はさすがにきつかったかな」
「…バカ。そんなのオレだって同じだ」
 ぎゅっと抱き締められると、思わず苦笑する。
 こういうところは変わっていない。
「そう言えば後継者問題、解決しそうなんだって?」
「ああ、二番目の姉貴が頑張ってるからな。親父もそろそろ疲れたんだろう」
「由月も頑張っただろう? 12年間も引きこもり続けたんだから」
「最初は意地だったんだけどな。いつの間にか、コレが当たり前になってた」
 本人も驚いているらしい。
「まあ引きこもっていたおかげで、2人っきりでいられる時間が多かったわけだし? 僕にとってはラッキーだったんだけどね」
「言ってろ」
 クスクス笑いながら、何度もキスをする。
 僕の手が、浴衣の合わせ目から彼の肌を撫でる。
 肌触りも変わっていない。
 由月の手も、僕の着ているTシャツの下からもぐりこみ、背中を撫でる。
「相変わらず男とは思えない手触りだよな。妹だって、こんなにスベスベしていないぞ?」
「都会人だからね。でもこれからは分からないだろう?」
「雅貴は変わらない気がするけどな」
 僕の背中を撫でる手が、ふと止まった。
「あっ、忘れてた。大事なことがあったんだ」

「Boys Summer Love!」・12

 伯父は絶対由月を手放さない。
 それに由月自身も、この土地から離れようとはしないだろう。
「そこまで言ってくれるのは嬉しいよ。でも僕を信じてくれないか? 四年間を我慢すれば、その後はずっと毎日、いつでもキミの側にいられるんだ。その為に僕も我慢するし、頑張れる」
「雅貴…」
 顔を上げた由月の眼は、赤く潤んでいた。
 僕は苦笑して、由月の頬を両手で包んだ。
 そしてゆっくりと近付き、薄く開いている唇にキスをした。
「んっ…」
 由月の腕が、僕の背中に回る。
 一年ぶりに触れる唇は、やっぱり熱くて甘かった。
「…今の僕は、自信が無さ過ぎなんだ。だから胸を張って、由月の側にいられない。だから修行に行ってくるよ」
「バカ…」
「うん、バカなんだ。由月のことが好き過ぎて、人生を変えてしまうほどの大バカなんだよ」
 額と額を合わせ、僕は笑った。
 由月は潤んだ眼で、僕を見つめた。
「浮気なんてするなよ」
「しないよ。7年間、ずっと由月に夢中なんだから」
「7年…。オレが小学1年の時からかよ」
「うん。一目惚れだったんだ。由月が男の子だって分かった後も、諦められなかった」
 ぎゅっと細い体を抱き締める。
「だから四年間なんて短いよ。由月こそ、浮気しないでくれよ?」
「するかよ。オレは…雅貴が良いんだ」
 由月は強く抱き締め返してくれた。
「再会する時、オレは大学生か。雅貴の身長、追い抜いているな。きっと」
「ははっ、それは怖いようで、楽しみだな」
 僕は由月を抱き締めたまま、畳の上にそっと寝かせた。
「きっと体格もよくなっているよ。由月は僕より成長しそうだ」
「その時には逆転だな」
「それはホラ、その時によるよ」
 由月に覆い被さり、前髪をそっと撫で上げ、額にキスをした。
「…んだよ。キスさえまともにできなかったクセに」
「それは1年前の話だろう? その時よりは成長しているよ。いろいろとね」
 まあ…知識を仕入れたぐらいだけど。
「まさか浮気したんじゃないだろうな?」
 途端にムッとする彼が可愛くて、ついふき出してしまう。
「ないない。僕は由月一筋だから」
「どうだか。都会の人間はそういうの、早いって言うし」
「どこで聞いたか知らないけど、僕にはありえないよ。ずっと由月に夢中だったんだから」
 頬に唇を寄せると、僅かに身動ぎした。
「大好きだよ、由月。五年後にはキミを守れるぐらい、強くなって帰って来るよ」
「…来年までは、来るんだよな?」
「もちろん。受験生だけど、由月には会いたいからね。勉強ばかりしているだろうけど…」
「構わない。雅貴が側にいるなら、何したっていいし、何をされたって良い」
 そんな熱っぽい眼で見つめられると、理性が吹っ飛びそうだ。
 相手はまだ中学生だから、自制しようと思っていたのに。
 僕は由月に再びキスをした。
 何度も弾むように口付けし、時には深く重ねた。
「んんっ…ふぅっ…!」
「由月、由月…! 愛しているよ」
 恥ずかしげも無く出たセリフに、自分自身でも驚いた。
 でも僕の正直な気持ちだから、由月が相手だから、すんなり出た言葉だろう。
「…例え教師になれなくたって、大学を卒業したら、絶対に来いよ」
「ヒドイこと言うなぁ。僕は絶対教師になるよ。農業は向いてなさそうだしね」
「見てろ。オレが大人になったら、雅貴を養ってやる」
「ははっ。楽しみにしているよ」
 僕は手を伸ばし、電気に繋がっている紐を掴んで引っ張り、電気を消した。
 カーテンの隙間からもれる月の光だけが、唯一の明かりとなる。
 川の流れる音や、虫の音、風の音や木々の揺れる音だけが耳に届く中、僕は再び由月に覆い被さった。



「ふぅ…。四年ぶりだと、距離が遠く感じるなぁ」
「アタシは毎年思うわよ」
「まあまあ。後少しだし、2人とも頑張って」
 僕は四年ぶりに、この土地に足を踏み入れた。
 季節は夏。
 この春、僕は無事に大学を卒業した。
 もちろん、念願だった教育免許を取得して。
 そしてこの土地の小学校に、赴任することが決まった。
 けれどいろいろバタバタしていて、結局夏になってやっと来れた。
「荷物は先に届いたかな?」
「多分ね。でもあんまり量がなかったわね」
「義兄さんが揃えてくれるって話だし、必要なかったんだろう」
 そう、僕が赴任できたのは、伯父の力も影響している。
 この土地には若い先生がいないから、僕がこっちで働きたいと言った時には大喜びしてくれた。
 だから身一つですぐに来いと言われたけれど、さすがにそれはと思い、いろいろ準備をして今日来た。
「兄さんに何か気に食わないことを言われたら、すぐに連絡すんのよ。あの人、歳を取ったせいで余計に頑固になっちゃってるから」
「その…由月のことでも?」
「由月ちゃんのことは、もうそろそろ諦めが入っているわよ。二番目のコがもう継いでいるようなもんだし」

「Boys Summer Love!」・11

 由月は30分ほどで眼を覚ました。
 部屋から出たくないと言うので、由月の宿題をすることになった。
 由月は僕の教え方が上手いと言ってくれる。
 僕は彼の理解力がスゴイだけだと思うけど、由月がこう言ってくれるから、教師を目指そうと思ったのかもしれない。
 やがて空が夕闇に染まると、由月が廊下をじっとみた。
「あっ、義兄さん達、来た?」
「みたいだな」
 由月が立ち上がるので、僕も続いた。
「由月くん、雅貴くん、いるかな?」
「夕飯、ここに置いておくから。食べ終わったら、また廊下に置いといてね」
「ああ…」
「分かりました。すみません、ありがとうございます」
 由月は襖を開けなかったので、声を張り上げた。
 2人の足音が遠ざかったところで、ようやく襖を開ける。
「…お義兄さん達、苦手?」
「姉貴達の旦那だからな。ちょっとうるさく感じている」
 うっう~ん、本当に難しいな。
 苦笑しながらもお膳を部屋の中に入れた。
「でも嫌いってワケじゃないんだ」
「うん」
「ただ後継者のことで、バタバタしてるから…。やっぱり姉貴達の旦那だしな」
 由月ではなく、従姉達の味方になるのはしょうがないこと。
 それを分かっている由月は、僕よりよっぽど大人だ。
「雅貴が側にいてくれれば良いのに…」
「ごほっ!」
 ご飯が変なところに入った!
 慌ててお茶を飲んで流すも、僕は別の意味で驚いていた。
 由月が弱音を吐いた。
 今まで頼ることをほとんどしなかった由月が…。
 それは嬉しいけれど、同時に罪悪感もあった。
 だって僕は側にいるどころか、離れようとしている。
「なあ、雅貴はこっちに来れないのか?」
「ぼっ僕はまだ高校生だし…。それに進路のこともあるから、今動くわけにはいかないんだ」
「そっか…。ゴメン、変なこと言った」
「ううん」
 彼が言い出した原因は、何となく分かる。
 後継者問題について、彼には身内に味方がいない。
 伯父は後継者にしたい派だし、伯母もきっと心の中ではそう思っている。
 従姉達は自分が引き継ぎたい気持ちを持つ人がいれば、伯父が由月を特別扱いすることを良く思っていない人もいる。
 幼い2人の弟妹には、まだ難し過ぎる。
 味方と断言できる存在がいないからこそ、まだ小学1年生の時から家族と距離を取ってしまっているのだ。
 そのことを聞いて、僕の両親が動いたわけだけど…。
「雅貴が側にいれば、オレは…」
「後継者を受け入れた?」
「そっそれはないけど」
 僕のイジワルな言葉に、由月は激しく動揺した。
 その後は無言で夕飯を食べ終え、お膳を廊下に出した。
 そんなに時間を置かず、お膳は持っていかれた。
「―で、雅貴の話って何?」
「あっ、うん。僕の進路のことなんだけどね」
 僕を真っ直ぐに見つめる由月の視線が痛い。
「教師になりたいって、言ったよね? それで教師になる為の大学が、父方の実家の近くにあってね。そこで下宿しながら通うことにしたんだ。まあ大学が受かったらの話だけど」
「そっか」
「うん、それで…四年間、会えなくなりそうなんだ」
「そう…って、えっ?」
 由月の眼が、大きく見開かれた。
「父方の実家は、今より由月の家から遠ざかる。それに教師になる為には猛勉強しなきゃいけないし、バイトもしなくちゃいけない。だから大学四年間は、ここには来れない」
「なんっで…。夏休みとかは長いんだろう?」
「長いけどその分、勉強やバイトをしたいんだ」
「オレに…会えなくていいのか?」
 由月の声が細く、小さくなる。
「全然よくないよ。でもそうでもしなきゃ、僕は強くなれないし、教師にもなれない」
 ぐっと歯を噛み締め、僕は言い続けた。
「教師になれば、赴任先をこの土地の学校に選ぶよ。何が何でもここへ来る。だから四年間は…我慢するしかないんだ」
「そんなっ…! 勝手過ぎる。オレに何1つ相談せずに、一人で勝手に決めて…」
「うん、勝手なのは分かってる。でも由月に相談しても、反対されるのは分かってたから」
 由月が息を飲む。
「会えなくなるのはたった四年間だ。大学を卒業すれば、必ず僕はここへ来る。待ってて…くれないか?」
「じゃあ四年間、オレはずっと1人かよ?」
「…僕の両親はここへ来るよ。後継者問題に対して、発言力は低いだろうけど、由月の味方をしてくれる」
「でもっ…」
「電話やメールで話もできる。だから、待っててくれないか?」
 由月が何か言いそうになっても、僕は遮り意志を伝えた。
 しばらく、重い沈黙が続く。
 由月は顔を伏せたまま、唇を噛み締め、両手をきつく握っていた。
 必死に耐えているのが、伝わってくる。
「…オレが…そっちへ行っちゃダメか?」
 やがて吐き出された言葉は、とても現実味を帯びていなかった。
「それはムリだと、由月自身が分かっているだろう?」

「Boys Summer Love!」・10

「なっ! …雅子か」
「雅貴…」
 2人はすぐに力を抜いた。
「まぁたハデに暴れたわね」
 母が感心半分、呆れ半分に周囲を見回す。
 確かにいろいろな物が破壊され、いろいろな物がボロボロになっていた。
「っ! 雅貴、オレの部屋に行こう」
「うっうん」
 由月は僕の手を掴み、歩き出す。
 床に落ちている物を避けながら、広間を出た。
 廊下を歩いている時、由月は何も言わなかった。
 だけど部屋に入るなり、ぐったりと座椅子に座った。
「…お久し振り。そしてどうしたの?」
「ああ、いらっしゃい。…別に。いつものケンカ」
「いや、激し過ぎるから」
 あんなのをいつもしていたら、この家はとっくに崩壊している。
 由月はむっす~としながら、腕を組んだ。
「そろそろ親父が後継者の就任式をしたいだなんて言い出したんだ」
「就任式? 早くない?」
「親父は昔の人間だから。14歳で成人だなんて言いやがる」
「ああ…」
 中学の時にやった立志式を思い出した。
「由月ももう中学2年だもんね。伯父さん、慌て始めたんだ」
「ああ。イヤだって言っても聞かねーし。ここんとこ、今みたいなケンカが続いてる」
「でもせっかく1番目のお姉さん夫婦と子供が来てて、2番目のお姉さんも結婚式を控えているのに、あんまり暴れない方がいいよ」
「分かってる。でも親父が引かない」
 彼も彼で、将来に問題を抱えている。
「由月は将来のこと、伯父さんに伝えた?」
「言ったさ。大反対されたけどな」
 その時の伯父の怒りが目に浮かぶようだ…。
「でも姉貴達が珍しく賛成してくれてな。だから2番目の姉貴の結婚式までが勝負だな」
「結婚式って秋だよね? お婿さんを取るから、この家に家族が増えるんだ」
「ああ。元々2番目の姉貴は自分が家を継ぐんだって考えていたらしい。けれど親父がああだろう? オレの次に、親父とやり合っている」
 …相変わらず気性の荒い人達だ。
「う~ん…。由月、パソコン関係の仕事をしながら、家を守ることはできないの?」
「さすがにムリだな。宮乃原家の当主は代々、村長みたいなことをしている。青年団をまとめたりするのも、当主の役目なんだ。片手間にやれるほど、楽な仕事じゃない」
「うう~ん…」
 思った以上に、当主の仕事は難しそうだった。
「…悪かったな」
「ん? 何が?」
「せっかく里帰りしたのに、イヤな場面を見せてしまって…」
「別にいいよ。まだここへ来たばかりの頃は、母さんと伯父さんの方がやり合っていたから」
 血気盛んな一族だ。
 気まずそうに俯いている彼に、そろそろ言わなくちゃいけない。
 4年間、会いに来れないことを…。
「あの、さ。由月に改まって言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「ん?」
 何も分かっていない顔をされると、胸が痛む。
「えっと…夜に話したい。ちょっと重くなると思うから」
「あっああ、分かった」
「うん、ありがとう」
 その時、僕は彼の顔を見れなくなっていた。
「…あっ、母さんだ」
 由月が襖の方を向いた。
「由月、雅貴くん、いる?」
「いる」
「あっ、いるよ」
 伯母は襖を開き、不安そうな顔を見せた。
「雅貴くん、来てくれたのに嫌な場面を見せてゴメンなさいね」
「いっいや、母さんと伯父さんの方が激しかったから」
「ふふっ、そうね。あと由月」
 由月は伯母に呼ばれ、びくっと肩を揺らしたけれど、顔は背けたままだった。
 そんな様子を見て、伯母は仕方無いというように困り顔でため息をついた。
「父さんにはわたしから言っておくわ。でもあなたも少しは反省してね」
「…分かった」
「ええ。それじゃあ食事はできたら持ってくるから」
「いっいいよ、伯母さん。お膳重いし」
「それなら大丈夫。娘の旦那さん、2人もいるしね。気にしないで」
 あっ、なるほど。
 僕や由月より、よっぽどアテになるな。
「お膳は部屋の前に置いてもらうから。食べ終えたら同じように、部屋の前に出しときなさい」
「うん…」
「分かったよ、伯母さん」
「じゃあね。何かあれば、気軽に言ってね」
 伯母は最後まで困り顔で、襖を閉めて行った。
「カッコ悪いな、オレ…」
「そんなことないよ」
 僕は彼の側に寄り、細い肩を抱き寄せた。
「由月も伯父さんも、叶えたい願いと夢がある。だけどお互いにすれ違っているだけ。分かり合える時は、必ず来るよ」
「ああ…そうだと良いな」
 素直に僕に身を寄せる彼を見て、また胸が痛む。
 こんなに弱っている彼に、更に追い討ちをかけるのは、僕なんだ。
 暗い気持ちのまま、由月を抱き締める。
 由月は疲れていたらしく、眠ってしまった。
「由月…」
 あどけない寝顔を見ると、胸の奥が熱くなる。
 唇に視線を向けると、思わず思い出してしまう。
 この唇の熱さと甘さを…。
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