「Boys Summer Love!」・14

2011.08.01(18:50)

「んっ…?」
 由月は僕を片手で抱き締めたまま、もう片方の手を伸ばし、机の上からファイルを取った。
「ちょっとコレ、見てくれよ」
「何? コレ」
 僕は受け取り、ファイルを開いて見た。
 内容はここら辺の土地のことだった。
 昔、温泉や金が出たという歴史の一覧表もある。
「…コレ、由月が研究しているの?」
「ああ。昔の資料とか出してさ、まとめてみたんだ」
「ふぅん。分かりやすいし、良いと思うよ」
「そっか。それでオレ、温泉や金を探してみようかと思うんだ」
「へぇ…って、はい?」
 思わぬ言葉に、思わず眼が丸くなる。
「探すって…温泉や金? でも取り尽してしまったんじゃ…」
「でもアレから何十年も経っているし、まだ探していない所も多いんだ。地質によっては、また金や温泉が出る所があるかもしれない」
「そうかもだけど…お金持ちになりたいの?」
 後継者にはなりたくないことは知っている。
 だから考えつくことなんて、それぐらいしかない。
「まあな。金があれば、雅貴を養えるだろう?」
「あっ」
 五年前に由月が言っていたことか。
「でっでも本当に出るとは限らないんだろう?」
「まあな。でも大学を卒業するまでは探してみようかと思ってる。だからそれまでは待っててくれよ」
「あっあのねぇ」
 いろいろと言いたいことはあったけど、自信ありげな彼の顔を見ていると、何にも言えなくなってしまう。
 良い笑顔するようになったな。
 僕はため息をついた。
「じゃあそれまでは、半人前だね」
 だから僕も笑って見せる。
「まっ、それはしょうがないな。見つかるまでは、何を言っても半人前だし」
「物分りが良くなって嬉しいよ」
「抜かせ」
 僕は由月を畳の上に押し倒した。
「すぐに逆転してやるからな」
「ははっ、楽しみにしているよ」
 僕はファイルを置いて、由月の頭を撫でた。
 …見つからない…とは思う。
 けど、もしかしたらという思いもある。
 由月なら、成し遂げそうなのが怖い。
 そしてその時、逆転されるのも…いろんな意味で怖かった。



 けれどそれから3年後、由月は本当に見つけてしまった。
 温泉と金を。
 おかげで村は大変賑わい、由月は有名人となった。
 そして温泉と金を発見したことを盾にして、二番目のお姉さんに後継者の座を本当に譲り渡してしまった。
 伯父は物凄く何か言いたそうにしていたけれど、すでに由月の方がいろいろな意味で上になっていた。
 そして僕はと言うと、教師を続けていた。
「約束違反だ、雅貴」
「人聞きの悪いこと、言わないでくれよ。若い教員が僕1人しかいないのに、いきなり辞めるわけにはいかないだろう」
 由月の部屋で、僕は彼に恨めしげな顔をされていた。
「…分かった。なら他の所から若いのを引き抜いてくる。大金を積めばいくらでも来るだろう」
「由月、それ悪者のセリフ…」
 由月は僕が教師を辞めないことに、不満を持っていた。
 でも僕だって、25になって無職は嫌だった。
「まあ教師は辞めてもらうとして」
 ぎくっ★
「逆転のことは、実現させてもらうぞ」
 やっやっぱり話はそっちにいくのか。
 ぐいっと手を引かれ、由月の腕の中に捕らわれた。
「ずっと待ってたんだからな」
「あはは…。執念深いね、由月」
「小学一年のオレに、一目惚れし続けたお前が言うことか?」
 ああ、それを言われると…。
「あっ、ねぇ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「何だよ?」
「由月はいつから僕のこと、好きになってくれたの?」
 少なくとも、中学生の頃には恋愛感情になっていたと思う。
 じゃなきゃ、キスしてこないはずだし。
 改めて聞くと、由月の顔がカッと赤く染まった。
「…えっ?」
 この反応はもしかしなくても…。
「由月も…一目惚れしてくれた、とか?」
「なっ…!」
 ああ、この反応は本物だ。
 由月もあの日、あの時、僕を好きになってくれたのか。
 好意を寄せられていると感じていたことは、どうやら自惚れではなかったと、一安心。
 でもお互い15年間も同じ人を好きでい続けたなんて、スゴイことだと改めて思う。
「~~~っ! …雅貴がマヌケにもすっこけなきゃよかったのに…」
 うっ! たっ確かにはじめて出会った時、僕は転んでしまったけど…。
 まさかアレで一目惚れされたのか?
「何か頼り無さそうだと思ってたら、実際そうだし…。オレが守らなきゃと思ったのが間違いだった」
 そう言うも、僕を抱き締める腕の力は強くなるばかり。
「ははっ。僕は由月の美しさに一目惚れしたよ。こんなキレイな子の側にいたいって、強く思ったんだ」
「雅貴…」
「愛しているよ、由月」
 僕も強く由月を抱き締める。
「もう絶対離れないから…」
「ああ、側にいろよ。オレの側に、ずっと…」
 絡まりあう視線。
 引き合うように、合わせた唇。
 これからもいろんなことが、たくさんあるだろう。
 けれど由月が側にいてくれるなら、2人ずっと一緒なら、何だって楽しめる気がする。
 あの夏、はじめて由月と会ってから、願っていた。
 ずっとこの夏が続けばいいのに…と。
 2人でいられる時が、永遠であれば良いのにと。
 その願いは叶えられ、そしてこれからも続く。
 2人の永久の夏は、まだまだ長い。



<END>
★今まで読んでくださって、ありがとうございました!
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「Boys Summer Love!」・13

2011.07.31(17:56)

 二番目の従姉は伯父と争ってても埒があかないと悟ったらしい。
 最近では後継者のような働きをしている為、周囲の人間は二番目の従姉を後継者にと言い出しているみたいだ。
「由月ちゃん、大学生になってから、かなり大人になったわよ。アンタ、成長追い抜かれているわね」
「うっ…。それは怖いような楽しみなような…」
 時々由月の写メが送られてきたけど、見るたびに大人っぽくなっていった。
 逆転は…本当にありえるかもしれない。
 四年前までは一応僕がアレだったけど…元々由月の方がしっかりしているしなぁ。
「それにとってもカッコ良くなったの! もうここら辺の女の子は、由月ちゃんに夢中よぉ」
 …それでも『ちゃん』付けは直らないんだね、母さん。
 僕は四年ぶりに会うことが、楽しみで怖かった。
 最後に会った時、まだ中学生だった。
 彼は子供だった。
 最後の年にはずっと甘えられた。
 引っ付いて離れなかったと言っても過言じゃないぐらい。
 外にもほとんど出ず、部屋の中ばかりで過ごした。
 部屋の中では…親には言えないことばかりしていた。
 …お互い、受験生だったのに。
 今思い出しても、顔から火が出そうだ。
 邸に着くと、伯父と伯母が出迎えてくれた。
 相変わらずの大家族。
 でも今日からは僕の家になる。
「よく来てくれたな、雅貴くん」
「今日からよろしくね。自分の家だと思って、ゆっくり甘えてくれていいから」
「ありがとうございます。伯父さん、伯母さん」
 僕は2人に頭を下げた後、由月の部屋へ向かった。
 しかし、足取りは重い…。
 自分より成長することだろうとは予想していたけれど、あっあんまり変わっていると、ショックだな。
 僕の中では、由月はまだ幼くて可愛い存在だったから。
 でも…男の子は成長するもんだしなぁ。
 あっ、何か涙出てきたかも…。
 フラフラしながら由月の部屋の前に来た。
 僕の部屋は由月の隣にしてもらった。
 けれどちょっと失敗だったかな?
 成長した由月に迫られては、逃げようが無い気がする。
「―何つっ立ってんだよ? 雅貴」
 すっかり声変わりをした由月の声が、襖越しに聞こえてきた。
「相変わらず、足音だけで分かるんだね。由月」
 僕はそう答えて、襖を開いた。
 部屋の中はあまり変わっていなかった。
 けれどそこの住人は大分変わっていた。
 立派な一人の青年に成長していた。
 分かっていたことだけど…。
「寂しいもんだね…」
「何がだよ?」
 黒い浴衣を着ている由月は、すっかり昔の面影は無かった。
 最近の言葉で言うと、肉食系の野性味のある青年へ成長してしまったのだ。
「僕の可愛い由月が、こんなに立派になるのがだよ」
「だれが可愛かったんだよ! 相変わらず変なこと言うヤツだな」
 ムキになりやすいところは変わっていない、と。
「雅貴はあんまり変わってないみたいだな」
「最後に会った時、僕はもう18歳だったからね。アレから少しぐらいしか成長していないよ」
 身長ももう止まってしまったし、今では彼の方が高いだろう。
「まっ、今日からよろしく。約束通り、ちゃんと教師として赴任してきたから」
「ああ、本当に守ったんだな」
「言ったろう? 僕はキミを守れるぐらい強くなって、ここに戻って来るって」
「お前の可愛い由月じゃなくてもか?」
「外見は変わっても、中身は可愛いままだよ」
「お前…言うようになったな」
「多少、強くなっただけだよ。でも…」
 僕はゆっくりと彼を抱き締めた。
「四年間の我慢はさすがにきつかったかな」
「…バカ。そんなのオレだって同じだ」
 ぎゅっと抱き締められると、思わず苦笑する。
 こういうところは変わっていない。
「そう言えば後継者問題、解決しそうなんだって?」
「ああ、二番目の姉貴が頑張ってるからな。親父もそろそろ疲れたんだろう」
「由月も頑張っただろう? 12年間も引きこもり続けたんだから」
「最初は意地だったんだけどな。いつの間にか、コレが当たり前になってた」
 本人も驚いているらしい。
「まあ引きこもっていたおかげで、2人っきりでいられる時間が多かったわけだし? 僕にとってはラッキーだったんだけどね」
「言ってろ」
 クスクス笑いながら、何度もキスをする。
 僕の手が、浴衣の合わせ目から彼の肌を撫でる。
 肌触りも変わっていない。
 由月の手も、僕の着ているTシャツの下からもぐりこみ、背中を撫でる。
「相変わらず男とは思えない手触りだよな。妹だって、こんなにスベスベしていないぞ?」
「都会人だからね。でもこれからは分からないだろう?」
「雅貴は変わらない気がするけどな」
 僕の背中を撫でる手が、ふと止まった。
「あっ、忘れてた。大事なことがあったんだ」

「Boys Summer Love!」・12

2011.07.30(20:02)

 伯父は絶対由月を手放さない。
 それに由月自身も、この土地から離れようとはしないだろう。
「そこまで言ってくれるのは嬉しいよ。でも僕を信じてくれないか? 四年間を我慢すれば、その後はずっと毎日、いつでもキミの側にいられるんだ。その為に僕も我慢するし、頑張れる」
「雅貴…」
 顔を上げた由月の眼は、赤く潤んでいた。
 僕は苦笑して、由月の頬を両手で包んだ。
 そしてゆっくりと近付き、薄く開いている唇にキスをした。
「んっ…」
 由月の腕が、僕の背中に回る。
 一年ぶりに触れる唇は、やっぱり熱くて甘かった。
「…今の僕は、自信が無さ過ぎなんだ。だから胸を張って、由月の側にいられない。だから修行に行ってくるよ」
「バカ…」
「うん、バカなんだ。由月のことが好き過ぎて、人生を変えてしまうほどの大バカなんだよ」
 額と額を合わせ、僕は笑った。
 由月は潤んだ眼で、僕を見つめた。
「浮気なんてするなよ」
「しないよ。7年間、ずっと由月に夢中なんだから」
「7年…。オレが小学1年の時からかよ」
「うん。一目惚れだったんだ。由月が男の子だって分かった後も、諦められなかった」
 ぎゅっと細い体を抱き締める。
「だから四年間なんて短いよ。由月こそ、浮気しないでくれよ?」
「するかよ。オレは…雅貴が良いんだ」
 由月は強く抱き締め返してくれた。
「再会する時、オレは大学生か。雅貴の身長、追い抜いているな。きっと」
「ははっ、それは怖いようで、楽しみだな」
 僕は由月を抱き締めたまま、畳の上にそっと寝かせた。
「きっと体格もよくなっているよ。由月は僕より成長しそうだ」
「その時には逆転だな」
「それはホラ、その時によるよ」
 由月に覆い被さり、前髪をそっと撫で上げ、額にキスをした。
「…んだよ。キスさえまともにできなかったクセに」
「それは1年前の話だろう? その時よりは成長しているよ。いろいろとね」
 まあ…知識を仕入れたぐらいだけど。
「まさか浮気したんじゃないだろうな?」
 途端にムッとする彼が可愛くて、ついふき出してしまう。
「ないない。僕は由月一筋だから」
「どうだか。都会の人間はそういうの、早いって言うし」
「どこで聞いたか知らないけど、僕にはありえないよ。ずっと由月に夢中だったんだから」
 頬に唇を寄せると、僅かに身動ぎした。
「大好きだよ、由月。五年後にはキミを守れるぐらい、強くなって帰って来るよ」
「…来年までは、来るんだよな?」
「もちろん。受験生だけど、由月には会いたいからね。勉強ばかりしているだろうけど…」
「構わない。雅貴が側にいるなら、何したっていいし、何をされたって良い」
 そんな熱っぽい眼で見つめられると、理性が吹っ飛びそうだ。
 相手はまだ中学生だから、自制しようと思っていたのに。
 僕は由月に再びキスをした。
 何度も弾むように口付けし、時には深く重ねた。
「んんっ…ふぅっ…!」
「由月、由月…! 愛しているよ」
 恥ずかしげも無く出たセリフに、自分自身でも驚いた。
 でも僕の正直な気持ちだから、由月が相手だから、すんなり出た言葉だろう。
「…例え教師になれなくたって、大学を卒業したら、絶対に来いよ」
「ヒドイこと言うなぁ。僕は絶対教師になるよ。農業は向いてなさそうだしね」
「見てろ。オレが大人になったら、雅貴を養ってやる」
「ははっ。楽しみにしているよ」
 僕は手を伸ばし、電気に繋がっている紐を掴んで引っ張り、電気を消した。
 カーテンの隙間からもれる月の光だけが、唯一の明かりとなる。
 川の流れる音や、虫の音、風の音や木々の揺れる音だけが耳に届く中、僕は再び由月に覆い被さった。



「ふぅ…。四年ぶりだと、距離が遠く感じるなぁ」
「アタシは毎年思うわよ」
「まあまあ。後少しだし、2人とも頑張って」
 僕は四年ぶりに、この土地に足を踏み入れた。
 季節は夏。
 この春、僕は無事に大学を卒業した。
 もちろん、念願だった教育免許を取得して。
 そしてこの土地の小学校に、赴任することが決まった。
 けれどいろいろバタバタしていて、結局夏になってやっと来れた。
「荷物は先に届いたかな?」
「多分ね。でもあんまり量がなかったわね」
「義兄さんが揃えてくれるって話だし、必要なかったんだろう」
 そう、僕が赴任できたのは、伯父の力も影響している。
 この土地には若い先生がいないから、僕がこっちで働きたいと言った時には大喜びしてくれた。
 だから身一つですぐに来いと言われたけれど、さすがにそれはと思い、いろいろ準備をして今日来た。
「兄さんに何か気に食わないことを言われたら、すぐに連絡すんのよ。あの人、歳を取ったせいで余計に頑固になっちゃってるから」
「その…由月のことでも?」
「由月ちゃんのことは、もうそろそろ諦めが入っているわよ。二番目のコがもう継いでいるようなもんだし」

「Boys Summer Love!」・11

2011.07.29(16:03)

 由月は30分ほどで眼を覚ました。
 部屋から出たくないと言うので、由月の宿題をすることになった。
 由月は僕の教え方が上手いと言ってくれる。
 僕は彼の理解力がスゴイだけだと思うけど、由月がこう言ってくれるから、教師を目指そうと思ったのかもしれない。
 やがて空が夕闇に染まると、由月が廊下をじっとみた。
「あっ、義兄さん達、来た?」
「みたいだな」
 由月が立ち上がるので、僕も続いた。
「由月くん、雅貴くん、いるかな?」
「夕飯、ここに置いておくから。食べ終わったら、また廊下に置いといてね」
「ああ…」
「分かりました。すみません、ありがとうございます」
 由月は襖を開けなかったので、声を張り上げた。
 2人の足音が遠ざかったところで、ようやく襖を開ける。
「…お義兄さん達、苦手?」
「姉貴達の旦那だからな。ちょっとうるさく感じている」
 うっう~ん、本当に難しいな。
 苦笑しながらもお膳を部屋の中に入れた。
「でも嫌いってワケじゃないんだ」
「うん」
「ただ後継者のことで、バタバタしてるから…。やっぱり姉貴達の旦那だしな」
 由月ではなく、従姉達の味方になるのはしょうがないこと。
 それを分かっている由月は、僕よりよっぽど大人だ。
「雅貴が側にいてくれれば良いのに…」
「ごほっ!」
 ご飯が変なところに入った!
 慌ててお茶を飲んで流すも、僕は別の意味で驚いていた。
 由月が弱音を吐いた。
 今まで頼ることをほとんどしなかった由月が…。
 それは嬉しいけれど、同時に罪悪感もあった。
 だって僕は側にいるどころか、離れようとしている。
「なあ、雅貴はこっちに来れないのか?」
「ぼっ僕はまだ高校生だし…。それに進路のこともあるから、今動くわけにはいかないんだ」
「そっか…。ゴメン、変なこと言った」
「ううん」
 彼が言い出した原因は、何となく分かる。
 後継者問題について、彼には身内に味方がいない。
 伯父は後継者にしたい派だし、伯母もきっと心の中ではそう思っている。
 従姉達は自分が引き継ぎたい気持ちを持つ人がいれば、伯父が由月を特別扱いすることを良く思っていない人もいる。
 幼い2人の弟妹には、まだ難し過ぎる。
 味方と断言できる存在がいないからこそ、まだ小学1年生の時から家族と距離を取ってしまっているのだ。
 そのことを聞いて、僕の両親が動いたわけだけど…。
「雅貴が側にいれば、オレは…」
「後継者を受け入れた?」
「そっそれはないけど」
 僕のイジワルな言葉に、由月は激しく動揺した。
 その後は無言で夕飯を食べ終え、お膳を廊下に出した。
 そんなに時間を置かず、お膳は持っていかれた。
「―で、雅貴の話って何?」
「あっ、うん。僕の進路のことなんだけどね」
 僕を真っ直ぐに見つめる由月の視線が痛い。
「教師になりたいって、言ったよね? それで教師になる為の大学が、父方の実家の近くにあってね。そこで下宿しながら通うことにしたんだ。まあ大学が受かったらの話だけど」
「そっか」
「うん、それで…四年間、会えなくなりそうなんだ」
「そう…って、えっ?」
 由月の眼が、大きく見開かれた。
「父方の実家は、今より由月の家から遠ざかる。それに教師になる為には猛勉強しなきゃいけないし、バイトもしなくちゃいけない。だから大学四年間は、ここには来れない」
「なんっで…。夏休みとかは長いんだろう?」
「長いけどその分、勉強やバイトをしたいんだ」
「オレに…会えなくていいのか?」
 由月の声が細く、小さくなる。
「全然よくないよ。でもそうでもしなきゃ、僕は強くなれないし、教師にもなれない」
 ぐっと歯を噛み締め、僕は言い続けた。
「教師になれば、赴任先をこの土地の学校に選ぶよ。何が何でもここへ来る。だから四年間は…我慢するしかないんだ」
「そんなっ…! 勝手過ぎる。オレに何1つ相談せずに、一人で勝手に決めて…」
「うん、勝手なのは分かってる。でも由月に相談しても、反対されるのは分かってたから」
 由月が息を飲む。
「会えなくなるのはたった四年間だ。大学を卒業すれば、必ず僕はここへ来る。待ってて…くれないか?」
「じゃあ四年間、オレはずっと1人かよ?」
「…僕の両親はここへ来るよ。後継者問題に対して、発言力は低いだろうけど、由月の味方をしてくれる」
「でもっ…」
「電話やメールで話もできる。だから、待っててくれないか?」
 由月が何か言いそうになっても、僕は遮り意志を伝えた。
 しばらく、重い沈黙が続く。
 由月は顔を伏せたまま、唇を噛み締め、両手をきつく握っていた。
 必死に耐えているのが、伝わってくる。
「…オレが…そっちへ行っちゃダメか?」
 やがて吐き出された言葉は、とても現実味を帯びていなかった。
「それはムリだと、由月自身が分かっているだろう?」

「Boys Summer Love!」・10

2011.07.28(00:16)

「なっ! …雅子か」
「雅貴…」
 2人はすぐに力を抜いた。
「まぁたハデに暴れたわね」
 母が感心半分、呆れ半分に周囲を見回す。
 確かにいろいろな物が破壊され、いろいろな物がボロボロになっていた。
「っ! 雅貴、オレの部屋に行こう」
「うっうん」
 由月は僕の手を掴み、歩き出す。
 床に落ちている物を避けながら、広間を出た。
 廊下を歩いている時、由月は何も言わなかった。
 だけど部屋に入るなり、ぐったりと座椅子に座った。
「…お久し振り。そしてどうしたの?」
「ああ、いらっしゃい。…別に。いつものケンカ」
「いや、激し過ぎるから」
 あんなのをいつもしていたら、この家はとっくに崩壊している。
 由月はむっす~としながら、腕を組んだ。
「そろそろ親父が後継者の就任式をしたいだなんて言い出したんだ」
「就任式? 早くない?」
「親父は昔の人間だから。14歳で成人だなんて言いやがる」
「ああ…」
 中学の時にやった立志式を思い出した。
「由月ももう中学2年だもんね。伯父さん、慌て始めたんだ」
「ああ。イヤだって言っても聞かねーし。ここんとこ、今みたいなケンカが続いてる」
「でもせっかく1番目のお姉さん夫婦と子供が来てて、2番目のお姉さんも結婚式を控えているのに、あんまり暴れない方がいいよ」
「分かってる。でも親父が引かない」
 彼も彼で、将来に問題を抱えている。
「由月は将来のこと、伯父さんに伝えた?」
「言ったさ。大反対されたけどな」
 その時の伯父の怒りが目に浮かぶようだ…。
「でも姉貴達が珍しく賛成してくれてな。だから2番目の姉貴の結婚式までが勝負だな」
「結婚式って秋だよね? お婿さんを取るから、この家に家族が増えるんだ」
「ああ。元々2番目の姉貴は自分が家を継ぐんだって考えていたらしい。けれど親父がああだろう? オレの次に、親父とやり合っている」
 …相変わらず気性の荒い人達だ。
「う~ん…。由月、パソコン関係の仕事をしながら、家を守ることはできないの?」
「さすがにムリだな。宮乃原家の当主は代々、村長みたいなことをしている。青年団をまとめたりするのも、当主の役目なんだ。片手間にやれるほど、楽な仕事じゃない」
「うう~ん…」
 思った以上に、当主の仕事は難しそうだった。
「…悪かったな」
「ん? 何が?」
「せっかく里帰りしたのに、イヤな場面を見せてしまって…」
「別にいいよ。まだここへ来たばかりの頃は、母さんと伯父さんの方がやり合っていたから」
 血気盛んな一族だ。
 気まずそうに俯いている彼に、そろそろ言わなくちゃいけない。
 4年間、会いに来れないことを…。
「あの、さ。由月に改まって言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「ん?」
 何も分かっていない顔をされると、胸が痛む。
「えっと…夜に話したい。ちょっと重くなると思うから」
「あっああ、分かった」
「うん、ありがとう」
 その時、僕は彼の顔を見れなくなっていた。
「…あっ、母さんだ」
 由月が襖の方を向いた。
「由月、雅貴くん、いる?」
「いる」
「あっ、いるよ」
 伯母は襖を開き、不安そうな顔を見せた。
「雅貴くん、来てくれたのに嫌な場面を見せてゴメンなさいね」
「いっいや、母さんと伯父さんの方が激しかったから」
「ふふっ、そうね。あと由月」
 由月は伯母に呼ばれ、びくっと肩を揺らしたけれど、顔は背けたままだった。
 そんな様子を見て、伯母は仕方無いというように困り顔でため息をついた。
「父さんにはわたしから言っておくわ。でもあなたも少しは反省してね」
「…分かった」
「ええ。それじゃあ食事はできたら持ってくるから」
「いっいいよ、伯母さん。お膳重いし」
「それなら大丈夫。娘の旦那さん、2人もいるしね。気にしないで」
 あっ、なるほど。
 僕や由月より、よっぽどアテになるな。
「お膳は部屋の前に置いてもらうから。食べ終えたら同じように、部屋の前に出しときなさい」
「うん…」
「分かったよ、伯母さん」
「じゃあね。何かあれば、気軽に言ってね」
 伯母は最後まで困り顔で、襖を閉めて行った。
「カッコ悪いな、オレ…」
「そんなことないよ」
 僕は彼の側に寄り、細い肩を抱き寄せた。
「由月も伯父さんも、叶えたい願いと夢がある。だけどお互いにすれ違っているだけ。分かり合える時は、必ず来るよ」
「ああ…そうだと良いな」
 素直に僕に身を寄せる彼を見て、また胸が痛む。
 こんなに弱っている彼に、更に追い討ちをかけるのは、僕なんだ。
 暗い気持ちのまま、由月を抱き締める。
 由月は疲れていたらしく、眠ってしまった。
「由月…」
 あどけない寝顔を見ると、胸の奥が熱くなる。
 唇に視線を向けると、思わず思い出してしまう。
 この唇の熱さと甘さを…。

BL・<Boys Summer Love!>

  1. 「Boys Summer Love!」・14(08/01)
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