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Kissシリーズ・イジワルなキス2(2)

「んなっ! ちょっ…何すんのよっ!」
 引き剥がそうとしても、思わぬ力でビクともしない!
「…あっ、本物?」
「本物よっ! ちょっと、具合が悪いなら保健室に行くか病院に行きなさいよ!」
「……そんなんじゃ、治らない」
「じゃあどうやったら治るのよ? ご両親、わざわざ海外から連絡してくれたんでしょ? 恋しいなら、もうそっちに行ったら?」
「行っても治らない」
 両親が恋しいとかじゃない、か。
 慣れない一人暮らしでまいっているのではないか、というのが周囲の意見だった。
 でも違うとなると…。
「じゃあどうすれば元気になるの?」
 あたしが尋ねると、顔を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
「…協力してくれる?」
「まああたしにできることなら…」
 幼い頃にさんざんイジワルされたけれど、でも元気のない姿を見て喜ぶあたしじゃない。
 すると急に束縛が解けたかと思うと、いきなり…キスされた。
「…へっ?」
「…ああ、やっぱり…。こうしていないとオレ、元気が出ないみたいだ」
 そう言って今度はぎゅっと抱き締められた。
 ハッ!と我に返ったあたしは、アイツの腕の中で暴れだす。
「ちょっと! いきなり何すんのよ!」
「そんな驚くことじゃないだろう? 二回目なんだし」
 …その言葉で、八年前の出来事を思い出す。
 そう、彼とキスをするのは二度目。
 一度目は彼が引っ越す前日、突然あたしの眼の前にコイツが現れた。
 珍しく真面目な表情で話があると言われて、家の近くにある公園に行ったのだ。
 そこで何もコイツは言わず…突然、キスをしてきた。
 当時のあたしはキスの意味が分からず、ただ首を傾げるだけ。
 でもコイツは満足したように微笑んで、そのまま帰って行った。
 ――翌朝、アイツが誰にも何も言わず、転校して行ったことを知った。
 そしてあたしは成長し、キスの意味が分かるようになる。
 アレがファーストキスだったことも…。
「…ずっと聞きたかったんだけど、何でキスしてきたのよ?」
「あっ、覚えてた? 何も言ってこないから、忘れられてたかと思ってた」
「そりゃ忘れたかったわよ!」
 けれど同じ学校に通って、顔を見ていたらイヤでも思い出す。
「…当時のオレってさ、本当にガキで、好きなコほどイジワルしちまってたんだ。でも遠くへ引っ越すって親に言われて、気付いた。おチビと離れるのが寂しいって。だからキスしたんだ」
「……当時のあたしからしてみれば、最悪のイジワルだったわよ」
「ゴメン…。本当は引っ越すことを言って、イジワルしてたことを謝ろうと思っていたんだけど…。いざおチビを前にしたら、何も言えなくなって…気付いたらキスしてた」
「自分勝手なヤツ」
「本当にゴメン…。でもオレ、おチビがいないとダメみたいだ」
 …それならもう、昔の変なあだ名で呼ばないでほしい。
 まだ八歳の頃のあたしは小さくて、確かにおチビってあだ名が似合うコだった。
 そして性格も消極的で…コイツがイジワルしてこなかったら、きっと誰とも関われなかった。
 コイツがいない日々に平和を感じていたのは確か。
 けれどちょっとだけ、寂しさを感じたのも確かだった。
「…それならもう『おチビ』って言わないで。あたしの名前、ちゃんと呼んでよ」
 顔を上げながら言うと、少し照れるコイツが可愛いと思ってしまう。
「ううっ…! 改めて名前で呼ぶのって、結構照れるな」
「じゃなきゃ、もう二度と声をかけないし、キスもさせない」
「うっ! …こういうところでイジワルするなよ」
「アンタがそれを言うか」
 八年前のことはちゃんと今でも恨んでいるのだ。
「はあ…。わーったよ。無視されるのも、キスできないのも、オレにとっちゃあ死活問題だからな」
「バカなヤツ」
「自覚してる」
 こんなにやつれるほどあたしを好きだなんて、本当にバカ。
 けれど今は真剣な表情で、真っ直ぐにあたしの名前を呼ぶようになったんだから、いっか。

<終わり>

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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

Kissシリーズ・イジワルなキス2(1)

 生きていれば、もう二度と会いたくないと思う人間は必ず一人はいると思う。
「おっ、おチビじゃねーか! ひっさしぶりだなあ!」
 …それが特に、小学二年生の時に思いっきりイジメられた男だと余計に。
 桜が満開の高校入学式で、あたしはそのイジメっ子と再会した。
「どっどうしてここにっ…!」
 小学二年の時に同じクラスになったコイツは、何かとあたしをイジメてきた。
 けれどそれも三ヶ月も経たずに終わった。
 理由はコイツが転校して行ったから。
 あの時ほどほっとしたことはない。
 あたしはそのまま地元に残り、平穏で平和な小・中学生活を送ってきたのに…!
「いや、今度親父が海外転勤になっちまって。でもオレ、英語が苦手でさ。日本に一人で残ることにしたんだ」
 一緒に行けばよかったのにっ!
 思い出したくもない、忌々しい思い出が次々とよみがえってくる。
 あっ…倒れそう。
「また三年間、よろしくな!」
 なのにコイツときたら、平然と明るい笑顔を浮かべやがる…。
 まあ同じクラスになるとは限らないしな……と思っていたのに!
 同じクラスの上、苗字の席順でも前後と近い!
 …神様はあたしに何の恨みがあるんだろう?
 あたしはできるだけ近づきたくなかったのに、コイツは平然と話しかけてくる。
 やがて互いに友達ができたものの、何故か男女入りまじったグループになった。
 そうなれば当然、遊んだりつるんだりするのはグループ行動が多くなるわけで……そうなると、アイツとも接する機会が多くなる。
 …本当に嫌だ。
 小学二年の頃のアイツは、あたしにとって悪魔だった。
 まあ子供ながらのイタズラが多かったけれど、大分傷付いた。
 まず髪の毛をグシャグシャにされる、おもちゃの爬虫類で驚かしてくる、ノートや教科書に落書きをされる…などなど、数多くのイジワルをされたきたのだ。
 流石に周囲の友達や大人達も、時々は見兼ねて止めてくれた。
 けれどコイツは全く反省なんかせず、直らなかった!
 …あの頃、支えてくれる友達がいなかったら、不登校になっていただろうな…。
「何、遠い目してるんだよ? なあ、ちょっとノート見せてくれよ」
 前の席に座るコイツは、こうやっていっつも気軽に話かけてくる。
「絶対イヤ」
 だからあたしはノートを胸に抱え、拒否をした。
「何でだよ?」
「授業中に寝ているヤツが悪いから」
 ハッキリ言うと、近くにいた友達がクスクス笑う。
「なっ…! すっ少しだけ貸してくれよ」
「他に人に借りなさい」
 情けない顔をするけれど、あたしはそのままノートを机の中に入れる。
「ひっでぇ! ううっ…。昔はもっと優しかったのに…」
「違うわよ。昔は弱かったの!」
 コイツにイジワルされて、何も抵抗できないぐらいに弱かった。
 だからコイツが転校しても、あたしは強くなろうと思って、生きてきた。
 様々な武術を習ったり、勉強も頑張ったり、人付き合いも上手くできるようになった。
 …まあコイツは不思議なことに、明るくて分かりやすい性格をしているから、友達があたしよりも多いけど。
 それでも成績はあたしの方が上っ!
「ちゃー…」
 ブツブツ言うも、それでも予鈴の鐘が鳴ったので前を向く。
 …そう、決して許しちゃいけない。
 確かに小学生の頃のイジワルは苦々しい思い出だけど……それ以上に、コイツには最悪なことをされたのだ。
 その一点だけは、決して許すまじっ!
 例えコイツが忘れていても、あたしは絶対に忘れられない!
 そういう出来事があったからこそ、あたしはずっとコイツに冷たいままだった。
 友達にはイジワルされた過去を話すと苦笑して、あたしの味方をしてくれる。
 けれどアイツに対して評価が下がるわけじゃなく、こういうのを人徳って言うんだろうな。
「はあ…」
 早く来年にならないかな?
 クラス替えでコイツの顔を見なくなれば、平穏を取り戻せるのに…。

 ――そして一年後。
 念願かなって、あたしはアイツと別のクラスになった。
 しかもアイツは一番最初のクラスで、あたしは最後のクラス。
 校舎も別になり、晴れてあたしは平穏な日々を取り戻した!
 新しいクラスでは新しい友達もできて、一年の時のグループとも遊ぶ回数は減っていった。
 だけどまあみんな、新しい友達が増えて喜んでいたし、別に良い…と思っていたのに。
 何故かアイツだけは見るたびに元気をなくしていく。
 高校二年の秋にはげっそり痩せていて、流石に心配して、声をかけてみることにした。
 他の友達や先生、親が聞いても何も答えないと言うから、あたしが話しかけても同じかもしれないけど…。
 放課後、誰もいなくなった教室で、アイツに机の上で寝ていた。
「…ねっねえ、大丈夫?」
 今にも倒れそうな顔をしているから、声をかけつつ近付く。
 するとゆっくりと顔を上げて、あたしを見るなり、いきなり腰に抱き着いてきた!

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

Kissシリーズ・甘々のキス14

 普通、恋人キスと言うのは唇にするはず…よね?
 なのにたった一ヶ月前から付き合い始めた彼は、アタシにキスする場所は唇以外の場所。
「なあ、キスして良いか?」
「えっ? …うん、まあ良いけど」
 今はアタシの部屋で、彼と二人っきり。
 まったりのんびりした雰囲気を出していた。
 けれど彼はアタシを後ろから抱きしめていて、その唇が触れているのは首筋。
「ヤダ、ちょっと。くすぐったい」
「ん~。じゃあここは?」
 次にアタシの手首を掴んで、何故か甘噛み。
 …確かにくすぐったくはないんだけどね。
 そして頬、耳、また首といくけれど、唇には触れてこない。
 何でだろう?
「ねっねえ」
「何だ?」
「何でその…唇にキス、してくれないの?」
 ううっ…! 女の子から言うと、恥ずかしい。
 まるで誘っているみたいに、聞こえるだろうな。
 すると後ろの彼は、ニヤっと意地悪な笑みを浮かべる。
「唇にしてほしいのか?」
「と言うより、何で唇以外なのか知りたいの!」
 ちょっと見た目が怖い彼は、けれどアタシをとても優しくしてくれる。
 あんまり口数も多くないけれど、一緒にいて安らぐ人。
 彼がアタシに好意を抱いていることに気付いたアタシは、何となく彼を意識するようになった。
 そしてそれとなーく、付き合わないかと言ってみたら、やっぱりOKだった。
 それは素直に嬉しいんだけど…。
 恋人となってから、彼が言うキスとはずっと唇以外の体の場所。
 いや、別に良いんだけどね。
 キスされるたびに、彼に大事にされているのを感じるし。
 周囲にいる友達は、恋人ができるとあまり間もなく深い仲になってしまうらしい。
 キスなんて、恋人になってすぐにしてしまうコも多い。
 だからこそ、彼のキスはとても大切なものには思えるんだけど…。
「お前さ、キスと言えば唇だけだと思ってる?」
「そんなことはないわよ。頬でも手でも、キスはキスでしょ?」
 彼の唇が体に触れるたびに、くすぐったいけれど甘いしびれを感じる。
 それはきっと、唇だろうが体だろうが同じ。
 だってキスしているのは、アタシの大好きな彼なんだもん。
 まっまあだから、彼が唇にキスするのが嫌ならば、別にそれでも構わないんだけど…。
「キスする場所に意味があるの、知っているか?」
「へっ? …あっ、何となくは」
 確か22ヶ所ぐらい、キスの意味がある体の場所があるみたい。
 日本ではあまり馴染みがないけれど、外国では結構知られているみたいで…。
「って言うか、あなたは知っているの?」
「昔通っていた幼稚園が、そういうのを教えてくれたからな」
 …まず日本系ではないだろう。
「首筋は執着、手首は欲望、頬は厚意、耳は誘惑ってな」
 彼は言いながら、同じ場所に口付けていく。
 なっ何かとんでもない言葉ばかり飛び出てくるけれど…。
 もしかしたら、コレが彼のアタシへのメッセージなんだろうか?
 口数少ない彼が自分の気持ちを伝える方法として、キスを選んだのならば…理解できる。
 でもやっぱり理解できないことが、一つあった。
「…じゃあ、唇にするキスの意味は?」
 顔だけ振り返って彼の顔を真っ直ぐに見ると、今度はあたたかな笑みを浮かべる。
 そして静かにゆっくりと、唇にキスをされた。
「唇はもちろん、愛情だ」
「じゃあ何で今までしなかったの?」
「そりゃあもちろん…」
 そこで彼は言いつまった。
 眼をウロウロと泳がせて、顔色が僅かに赤くなる。
 アレ? これってもしかして…。
「恥ずかしかった、の?」
 アタシが先に言うと、一気に彼の顔色は真っ赤になった。
 …ああ、図星だったのね。
 彼は言葉よりも、態度で分かりやすいタイプみたい。
「…何でお前はいつも、俺より先に言うんだ?」
 それって告白のことも言っているんだろうな。
「だって…何かじれったいもん」
「んなっ!?」
 彼とは実は、中学時代からの知り合いだった。
 付き合い始めたのは、知り合って三年目になってから。
 随分と間があった。
 いい加減、アタシが耐え切れなくなったというのもある。
 お互い気になっていたのに、全然進展がないんだもん。
「あなたの言葉を待ってたら、おばあちゃんになっちゃうわ。だけどキスであなたの気持ちを伝えてくれるのならば、教えて?」
「…ああ、だが覚悟しろよ? キスする場所は、まだまだあるんだからな」
 ぎゅっと抱き締める力が強くなった。
「ふふっ。それは楽しみね。でも一番してほしい場所には、できるだけ多くしてね」
 アタシはニッコリ笑って、彼の唇に指で触れる。
「指先のキスは賞賛、だそうだ」
「じゃあ上手くキスできたことを、褒めているってわけね」
「調子に乗るな!」
 少しむくれた彼が、今度は強引に唇にキスしてきた。
 …こんなふうに彼の愛情に触れられるのならば、どこにキスされても良いと思っていることは、彼には内緒。

<終わり>

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

Kissシリーズ・学園のキス2(2)

「えっ? 付き合わないの?」
「どこへよ?」
「恋人としてだよ」
「……はっ?」
 イベントでのことは、私が関係者であるからやっただけだったのに?
「ああ、そこまでしなくても良いわよ。これから受験の準備があるんだし、そこでこじれたって言ってもいいし…」
 別れる言い訳なんて、高校三年になる私達には山のようにある。
 何でも良いのだ。
 なのに彼はニヤニヤしながら、私を見る。
「…何よ?」
「いや、医者を目指していることは知っていたけど、本当に真剣に頑張っているんだなって思って」
「何、それ。イヤミ?」
 彼は大病院の長男で、将来は跡継ぎになる予定。
 一方、私の実家は小さな町医者で、上に兄と姉がいるけれど二人とも医学生だ。
 将来、兄弟三人で病院を大きくしようというのが、小さい頃からの夢だった。
 だから私にとって、彼はいわゆる敵。
 思わず睨んでしまうと、彼は苦笑して手を振る。
「尊敬しているんだよ。ただもったいないなとも思っている。せっかくの青春時代、ただ勉強するだけじゃ味気なくない?」
 …何で兄や姉と同じことを言うんだろう?
 医学生でも兄には婚約者がいるし、姉には恋人がいる。
 けれど私は誰とも今まで付き合ったことがないので、心配されているのだ。
「どう? 良い機会だし、ボクと付き合ってみない?」
「何で?」
「ボクがキミを好きだから」
 …何か今、悪夢の幻聴が聞こえた。
「…アンタ、よりにもよって教会で何を言っているのよ?」
「ここだから、言えるんだよ。キミも本気にしてくれるだろう? それともこうでもしないと、信じてくれない?」
 彼の目に危険な光が宿るのを見て、身の危険を察知して後ろに下がったのに、すぐに両肩を掴まれて…
「んんっ…!?」
 キス、された。
 深く熱いキスは一瞬のことだったけれど、それでも感触は残る。
「…んのぉ、何をするのよっ!」
 ビンタをしようとするも、
「おっと、危ない」
 ひょいっとよけられる。
 …彼は運動神経が特に良かったっけ。
「ああ、ゴメン。つい避けちゃった。今度はよけないから、どうぞ」
 とニッコリ余裕の笑みを浮かべるので、遠慮なく、

バシンッ!

 と綺麗な顔を平手で叩いた。
「…いったぁ」
「こっちも痛いわよ」
 平手打ちっていうのは、意外と叩いた方もダメージを受ける。
 ジンジンと熱を持つ私の手は、彼の赤くなっている頬と同じだろう。
「いきなりキスなんてする方が悪いっ!」
「だからゴメンって。でも可愛いキミの姿を見たら、ガマンできなくなっちゃった」
「…それって普段、ブサイクだって言いたいの?」
「…キミって少し、卑屈だね」
 余計なお世話!
「でもそんなキミが好きだというのは本気で本当。…けれどボクは意外と臆病だから、こういう機会がなければ告白キスもできなかっただろうな」
 そう言って今度は優しく、穏やかに私を抱きしめてくる。
 彼のぬくもりに気を取られて、思わず抵抗するのを忘れてしまう。
「ボクはキミのことが好きだよ。さっきのイベントでキミが参加しているのを見て、誰にも取られたくないって思ったんだ。いつも何事にも一生懸命で、真面目なキミのことは前から気になっていたんだけどね」
 そう言って私の頭の上で、クスッと笑った。
「浮かれている女の子達よりも、落ち着いているキミに好きになってもらいたいって思ったんだ。…ダメ、かな?」
 …こういう時に弱い声を出すのは、ダメだと思う。
 けれど…彼を突き放せない私もダメ、だな。
 こんなつまらない私を、好きだと言ってくれる彼を手放せなくなっている。
「…私、面白くないわよ? 女の子らしくもないし」
「良いよ。とりあえず、キミの一番近くにいる男になれれば」
 そう言って再びキスをしてくる。
 …ああ、将来のこと、考え直さなきゃいけないな。


<終わり>

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

Kissシリーズ・学園のキス2(1)

「へっ? 私にも参加しろって?」
 それは12月のこと。
 私の通っている高校は共学で、キリスト教関係の学校だ。
 そのせいか、終業式後には学園ではパーティーを行う。
 まあパーティーと言っても、軽くオシャレをして立食をしながら話をしたり、ダンスを踊ったりするもの。
 堅苦しいマナーはなしで、揉め事さえ起こさなければ自由に楽しめる。
 私は二年で、パーティーを取り仕切る係の一人だった。
 なのにパーティーの目玉イベントである『聖夜までに恋人を作ろう!』という、いわゆる数人の男女が集まり、思いを寄せる相手に告白して、カップルになるというものに、参加してほしいと言われた。
 言ってきたのは、イベントを取り仕切っていた同級生達。
 何でも女の子側が一人、急病で来れなくなったらしい。
 まあこのイベントはそもそも、先にアンケートを取って、その中から選ばれた出来イベントでもあるんだけど…。
「でも私、別に告白したい人とかいないんだけど…」
 ウチは進学校で、一年の頃からそれこそ死に物狂いで勉強ばかりさせられる。
 だからこそ、こういうイベントが人気あるのだ。
 同級生達はとりあえず出てくれ、と頭を下げるばかり。
 イベントは互いに自己紹介をして、気になっている相手をスケッチブックに名前を書いて、みんなの前で公表するというもの。
 互いの名前を書けば、カップル成立ってわけだけど…。
「ちなみに男子は誰が出るの?」
 本当はイベントが始まるまでは、異性のメンツは秘密にされている。
 けれど緊急事態なので、同級生達はファイルを見せてくれた。
「…ん? 彼がいるのね」
 ファイルの中には、この学園で人気ナンバー1の彼がいる。
 いつも穏やかで成績優秀、女の子には特に優しいけれど、特定の相手がいないことでも有名。
 …妙に一線を引いているのが、ちょっと腹黒さを感じる相手だ。
 でもちょうど良い相手かもしれない。
 彼の名前を書く女の子は多いだろうし、その中の一人となれば恥もかかない。
 彼だってまさか、あまり話したこともない私の名前を書くワケがないしな。
「…分かったわ。出るだけ出るわ」
 ――こうして私はイベントに参加することにした。


 パーティーは終業式が終わり、午後からとなる。
 体育館を使うので、私達はそれこそ目が回るほど大忙し。
 何せ準備する時間は二時間ほど。
 その間にテーブルや料理や飲み物を並べたり、吹奏楽部にも演奏の準備を指示しなくてはならない。
 着替えは学校に持ち込んでいて、更衣室で後で着替えなきゃ!
 そしてパーティーが無事開催され、最初は立食と談笑が始まる。
 その間に着替えて、軽くメイクもして、体育館に出た。
 イベントが行われるまでは自由時間。
 私は友達と合流して、束の間の安らぎの一時を過ごす。
 …そして悪夢の時間が始まった。
 壇上に並べられたイスに座ると、向かいには同じ数の男子達が座る。
 …多くの視線が痛い。
 本当に突き刺さるようだ。
 けれど男の子も女の子もはしゃいでいるし、楽しんでもいる。
 落ち着いているのは私…だけじゃなかった。
 真向かいに座る彼もまた、落ち着いていた。
 …まっ、彼も頼み込んで出てもらったと言っていたし、あまり興味がないんだろうな。
 あっ、目が合った。
 私を見てにっこり笑い、軽く手を振る。
 なので仕方なく、私もぎこちなく笑いながら手を振った。
 そしてスケッチブックに名前を書く時間になった。
 コレでようやく終われる…そう思いながら、私は彼の名前を適当に書く。
 そうして全員がスケッチブックを見せ合った時、第二の悪夢が始まった。
 何故か彼は、私の名前を書いていた!
 しかも私は彼の名前を書いていたワケで…めでたくなく、カップル成立してしまったのだった…。


「何でアンタ、私の名前を書いたのよ?」
 カップルになった二人は、特別に教会で二人っきりになれる。
 今年は男女七名ずつ出たのに、カップル成立になったのは私と彼、そしてもう一組だけだった…。
 残りの女の子達は全員彼の名前を書いていたので、視線が真面目に突き刺さったのが痛かった。
「え~、だって壇上で合図しただろう?」
 私に締め上げられながらも、彼は笑みを絶やさない。
…ちっ。身長の高い男をしばくのは、こっちが苦労する。
「合図って…あの手を振ったヤツ?」
「そうそう。てっきりボクに合わせてくれるんだと思っていたんだ」
 あっ…。あの時、私は手を振り返したっけ…。
 まさか打ち合わせるわけにもいかなかったし、彼もまた、イベントには困っていたからな。
 彼は私がパーティーを取り仕切る役であることを知っていたし、そう思っても仕方ないか。
「…そう。まあ良いわ。これから冬休みになるし、その間に仲がこじれたって言えば、女の子達は喜ぶでしょうしね」

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sakura

Author:sakura
 現在はフリーシナリオライターとして活動しています。活動記録を掲載していきたいと思っています。「久遠桜」の名前でツイッターもしていますので、よければそちらもご覧ください。仕事の依頼に関しては、メールフォールでお尋ねください。

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