フリーのシナリオライターとして活動しています
『新たな人生と手に入れた自由』

「うん。流石はタイガ警備保障心霊対策課、良いマンションを紹介してくれたな」
「…慧花、お前本気で言ってんのか?」
 8階建ての高級マンションは、大河家が所有している。
 心霊対策課に雇われた宵闇の者や業魂は、ここに無料で住むことを許されていた。
「学院近くで良いじゃないか。彩斗も御門のじじいが後見人となってくれたおかげで、私と同じ高校2年生になるんだから、ちゃんとしてくれ」
「まあ別に高校生になるのは構わない。だが…アイツらの手先になるのが、なぁ」
(芹沢さんのこと、か)
 慧花は『あの後』のことを思い出す。


 ―戦闘後、彩斗は実家とタイガ警備保障に連絡をしてくれた。
 すぐにタイガは来てくれ、慧花は病院へ運ばれた。
 宵闇の者となった慧花は数日で完治して退院したが、向かったのは実家ではなく、華羅皇神社だった。
 そこで神主の御門重信と、彩斗の三人で話をした。
 慧花はタイガ警備保障心霊対策課に所属することを望んだ。
 危険な任務もあるだろうが、実家を出て生活するには充分な報酬を貰えることを知っていたからだった。
 家族は難色を示したものの、重信の説得を受け、渋々慧花を実家から手放すことを決めた。
 早速タイガ警備保障へ向かい、大河アカリと芹沢千雨に出会った。
 ―が、彩斗は芹沢を見て顔をしかめた。
 何となくイヤな感じがする―と言うのが彩斗の意見だ。
(確かに何かイヤ~な感じがしたな)
 アカリの方が気持ちが分かりやすく、気が合いそうだった。
 ゆえに今後の付き合いはアカリの方を中心にしようと、彩斗と決めたところだった。


 しかし納得していない部分があるらしく、引っ越してからもブツブツ言っている。
「でもワンフロア、全て使えるなんて贅沢だよな。二人だけじゃ使い切れないかも」
「自由で良いだろう? こういうのも悪くはない」
「自由か…。それと引き換えに戦いの日々を送るのも、悪くないだろう?」
「お前、言うようになったな」
「誰の影響だろうな?」
 お互いの顔を見つめ合い、二人は同時に笑う。
 ようやく手に入れた自由が、楽しくてならない。
「まっ、何はともあれ。全てが初めてづくしだ。いろいろと大変だろうが、2人で力を合わせて頑張ろう」
「だな。しばらくは学生生活と戦いの日々を楽しもうぜ?」
「前半は良いが、後半は物騒だな」
「けど戦うの、嫌いじゃないだろう?」
 彩斗の挑発的な視線を受け、慧花は唇を上げて笑う。
「―そう、だな。なかなかクセになりそうな、刺激的な行為だった。しかし自分の力不足を実感したというのもある。次に備えて、しばらくは修行を頑張ろう」
「かったるいな。どうせなら実践で頑張ろうぜ?」
「そういうのはダメだ。やっぱり積み重ねは大事だぞ」
「ったく…。そういうところは死んでも治らないんだな」
「当然。宵闇の者になったからと言って、性格までは変わらないさ」
 自信たっぷりに微笑む慧花を、彩斗はまぶしげに見つめた。
 長年求め続けた自由を手に入れた慧花は、本当に活き活きとしていて美しい。
「これからよろしくな、慧花」
 彩斗は慧花に左手を伸ばした。
 慧花の利き手は右手だったが、紋章があるのは左手の方。
 その意味を悟り、慧花は頷きながら左手で握手をした。
「よろしく、相棒」


【終わり】



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【2017/05/14 17:44】 | 【ホラー/オカルト短編集】
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 ただの人間が霊視の力を持っている―という異常な存在ではなく、宵闇の者として能力を堂々と使える存在になった。
 沸き上がる感情は、喜びと昂ぶりのみ!
「やれやれ。私はこんな危険思考の持ち主だったのか」
 皮肉げに笑うと同時に、バシャーと海が割れ、業魔が姿を現す。
 ゆっくりと陸地へ上がってくるその姿を見て、慧花は息を飲む。
 下半身はさっき見た棘が生えたタコのような足が8本あり、頭もタコのように丸くて縦長だった。
 しかしその額には血のように赤い魂命石が怪しく輝いており、大きく横一文字に裂けた口からは無数の尖った牙が見える。
「大きさは2・3メートルと言ったところか。それで特技は…」
 言いかけた慧花へ向かって、業魔は足を2本伸ばしてきた。
「毒のある足を攻撃に使うこと!」
 スっと眼を細め、横に飛んで攻撃を避けた。
 足の動きはしなやかな鞭のようだが、地面に当たるとコンクリートが弾けて飛んだ。
「多機能な足だこと」
 足は次から次へと攻撃を仕掛けてくる。
 時には避けながら、またある時はサハカリで弾いた。
 しかし弾くたびに金属音が鳴り響き、衝撃が慧花を襲う。
『おい、慧花。接近戦はムリだ。一旦、距離を置け』
「分かってはいるが、隙が無いんだ!」
 タコの足は8本もある為、絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。
 額にある魂命石を破壊すれば決着がつくことは知っていても、体の方がついていけない。
 息切れを始めた頃、サハカリの柄の部分2ヶ所に、タコの足が巻き付いた。
「しまった!」
 すると業魔はいきなり口を窄める。
 口の中がぷくっと膨らみ、慧花に向かって何かをふき出す。
「わっ!」
 慌てて身を縮こませて避けたソレは、後ろのコンクリートの建物の壁にドカッとめり込んだ。
『黒い砲弾かよ!』
 彩斗の言うように、めり込んだ物は黒くて丸い鉄のような塊だった。
 アレが体のどこかに直撃でもしたら、重傷は免れない。
(時間に余裕はないな)
 このままではただ霊力と体力が削られ、いずれ攻撃を避けきれなくなるだろう。
(ならば!)
「彩斗、私が倒れても死なない限り、お前は自由に動けるよな?」
『まあな。…って、何を考えてる! 慧花!』
「意識を手放す前に、開放する。ケータイ電話で実家とタイガ警備保障に連絡しといてくれ。連絡先はアドレスを見れば分かるから」
『お前っ…! ちっ、分かったよ!』
「頼んだぞ」
 慧花はサハカリを強く握り直し、刃を前に出しながら大きく一回転させた。

―ぎしゃああっ!

 悲鳴を上げ、業魔は後ろに下がる。
 柄に巻きつけていた足2本が刃で切り落とされたが、すぐに再生をしてしまう。
 だが一瞬の隙はできた。
 慧花はサハカリに残りの霊力と気力を全て注ぎ込む。
 力が満ちるまで、8本の足による攻撃は体を使って裂けるも、体には棘がかすり、切り傷が刻まれていく。
 神経の毒が体に流れ込んでくるのを感じながらも、慧花は倒れなかった。
(この一発に賭ける!)
 避けながらも攻撃が届く中距離まで来て、立ち止まる。
「貫穿ノ槍」
 低く呟き、慧花はサハカリを大きく振り下ろした。
 慧花の霊力と気力を込めた技は、紫色の一線となり、業魔の体を真っ二つにする。

 がしゃんっ…

 攻撃は魂命石をも二つに裂き、業魔は眼の色を失い、地面に倒れて動かなくなった。
 その様子を見届けた慧花はサハカリを大きく振り、真っ直ぐに立つ。
「初戦は勝利、と言ったところでいいな」
『ああ。苦戦の二文字はご愛嬌と言ったところだな』
「抜かせ」
 皮肉を言い合いながらも、慧花も彩斗も笑っていた。
「とりあえず、彩斗」
『うん?』
「後は……頼んだぞ」
 慧花は心の中で、武器解除を思った。
 すると左腕が徐々に人間の腕へと戻っていく。
 その光景を見ながら、ゆっくりと意識を手放した。
「お疲れさん。とりあえず、今はゆっくり休みな」
 再び人間形態に戻った彩斗は、笑顔で眠りについた慧花の体を受け止め、優しく微笑んだ。



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【2017/05/14 17:39】 | 【ホラー/オカルト短編集】
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 ぼわっ…と浮かんだ紋章に、思わず息を飲んだ。
「私は…宵闇の者になってしまったのか?」
「ああ。願った通りに、な」
 黒いTシャツに黒いジーンズを着る青年は、全てを見透かした眼で慧花を見る。
 そして慧花も青年を真っ直ぐに見つめた。
 霊視の力から、青年が人間ではないことが分かる。
「あなた……業魔魂?」
「そう呼ばれていたモノ。でも今は業魂だ。名前はアンタが付ければ良い」
 傲慢な言い方だったが、自分の半身だと思うと不愉快にならない。
 慧花はため息をつきながら立ち上がり、制服についた汚れを手で払う。
 そして改めて青年と向き合う。
「彩斗なんてのはどう?」
「サイト、ね。悪くない」
 満足そうに笑うところを見ると、気に入ったらしい。
「早速だが慧花、宵闇の者としてデビュー戦をしないか?」
 そう言って楽しそうに笑い、黒い海に視線を向けた。
 続いて慧花もそっちを見る。
(私が死んで少なくとも一時間は経過しただろう。先程より暗くなっている)
 すでに空は闇色に染まり、海もまた同じ色を映していた。
 そんな海の中に、今は確かな業魔の気配をはっきりと感じる。
「海の中にいるのは、海の生物を糧とした業魔だ。すでに人間を襲っているのは、身を持って知っただろう?」
「そうだな」
 ここで消えた人達は、慧花と同じ目に合ったのだろう。
 そしてマーカーを付けられ、業魔魂に憑り付かれて……。
 そこまで考えて、慧花は顔をしかめる。
「…あまり考えたくはないが、襲われた人、全員が業魔になった可能性は?」
「否定はできないな。けどただの死体となってそこら辺にある可能性もあるし、慧花のように宵闇の者として黄泉返ったのかもしれない。まっ、そいつ等はそういうことを担当としているヤツらに任せよう。オレ達は目の前の敵を倒すことに専念すれば良い」
 彩斗の眼には好戦的な色が強く浮かんでいる。
 その様子を見て、慧花は首を傾げた。
「何故いきなりあの業魔と戦わせようとする? いくら業魂が業魔に対して敵対心を持っているとは言え、黄泉返ったばかりでは厳しいものがあるだろう?」
「でも戦って実績をつければ、実家から出られるだろう?」
「お前っ…! 私の記憶を見たのか?」
「この姿を形成する時に、イヤでもな。でも良いチャンスだと思うぜ? このまま鳥かごの中の鳥として、一生を過ごすつもりかよ?」
(…それはイヤだ)
 今の現状に不満を抱いていたからこそ、無意識の中からこの存在を生み出してしまったのだ。
 真っ直ぐに、自分の欲望に素直なモノを。
 自分の手を引き、今までの日常をぶっ壊す存在を、心の中では強く求めていた。
(自由への手段は惜しめない、か)
 宵闇の者として戦えることを周囲に知らしめれば、実家を出て、自由に生きられるかもしれない。
 このまま家に帰っても、家族はきっと今まで通りの生活を強いるだろう。
 何より、慧花の安全を守る為に。
(私が望んでいる道は、ただ一つ。茨であろうが、自由であること!)
 ぎゅっと眼を閉じ、慧花は決意を固める。
「…武器形態は?」
「そりゃ一度、一体化をしてみないと」
 肩を竦める彩斗を見て、もっともだと思う。
 けれど黄泉返ったばかりでは、5度の一体化は不可能と考えるべきだろう。
 霊力には自信があるが、戦い慣れていない慧花には厳しい戦闘になるかもしれない。
 それでも自由を手に入れたい。
「なら、とっとと始めようか。彩斗、あなたの紋章は?」
「ココ」
 彩斗は胸の中心を指さす。
 確かにそこから何かの力を感じる。
 慧花は左手に紋章を浮かび上がらせ、彩斗の印のある場所へと重ねた。
「さあ、私の武器よ。その姿を見せよ!」
 ニヤッと彩斗が笑うのと同時に、その姿が霧と化す。
 霧の中心に紫色の魂命石が浮かび、慧花の掌の紋章へと飛び込んできた。
 異物感はあるけど、イヤではない。
 グッと握りしめると、水晶のような棘が左腕に巻きついていく。
 左手を天に向けると、棘はどんどん伸びていき、とある武器へとその姿を変えた。
「コレはシックル属のサハカリ、か…」
 紫色の魂命石が刃と柄の間で煌めき、武器自体は黒い。
 柄は170センチはあり、刃は1メートル近くはある。
(これではまるで、死神の大鎌だな)
 慧花は自分の左手と一体化した武器を見て、苦笑した。
 神社の娘が、死神の武器を手にするなんて、とんでもない皮肉だと思う。
「……けど本当に霊力と気力の消費が激しいな」
 一度に消耗する力は大きく、疲れる。
 慣れないと厳し過ぎることを実感した。
『おいおい、大丈夫か?』
 頭の中に直接響く彩斗の声で、慧花は意識を保つ。
「まあ…な。ところでコレじゃあ海まで飛べないぞ?」
『飛ぶことなんてないさ。向こうの方からやって来るだろう。もう夜が近いし』
「……その前に、私の意識が途切れそうなんだが」
『頑張れ』
(無責任な…。だが業魔と戦えるのは、私だけだからな)
 慧花はサハカリを構えた。
 業魔はここからでも見える。
 夜が迫っていることで、海から上がってこようとしているのだ。
 自分に向けられている殺意を感じて、向こうも殺意を抱きながら近づいてくる。
 冷や汗が背筋を伝い、喉が渇く。
(けれど何でだろう? 負ける気がしない)
 霊力は消費しているのに、気分は上昇している。
(…そうか。私はようやくあるべき存在へと変われたのだ)



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【2017/05/12 02:00】 | 【ホラー/オカルト短編集】
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『死と再生』

 ごふっ、と口から血を吐き出し、少女は虚ろな眼でぼんやり思う。
(…ああ、私はここで死ぬのか?) 
 本来なら夕日に照らされている時刻だが、今は雨が降り出しそうな灰色の空が倒れている少女の視界いっぱいに映る。
 少女が倒れている場所は華羅臨海工場跡地。
 海が見渡せる陸地に、その体はあった。
 ここは滅多に人が通らず、声を張り上げても誰も助けに来てくれないことを、既に少女は分かっていた。
(自業自得とはこのようなことを言うのだな…)


 少女の実家は神宮地域にある神社だった。
 小さな神社で、華羅皇神社から業魔関係の仕事を紹介されて、生活は成り立っていた。
 少女の父親が神主、兄がその後を継ぐ予定で、姉は巫女の役目を母から受け継いでいた。
 三人目の子として生まれた少女は、上の二人ほど神社の仕事には関わらせてもらえなかった。
 ―しかし、それには大きな理由があった。
 少女は普通の人間なのに、霊視の力が生まれた時から備わっていたのだ。
 宵闇の者でもないのに、持ってしまった力は災いとしか言い様がない。
 『人型業魔』と呼ばれる可能性もあり、家族は外部に洩れることを酷く恐れ、少女を神社関係の仕事からわざと外した。
 余程のことがない限り、外にも出してもらえなかった。
 しかし学校へ通う歳になると閉じ込めておくわけにもいかず、仕方なく実家から学校へ通うことを許された。
 けれど部活をすることも許されず、学校が終わればすぐに家に帰るように言いつけられた。
 おかげで友達と遊ぶこともままならず、不満が溜まっていく日々を送っていた。
 そんな中、少女は担任の先生から気になる話しを聞く。
 それは今日の帰りのホームルームで告げられた。
「警察署から最近、華羅臨海工場跡地近くで行方不明の人が増えていると言う話しをされました。あそこは危険地帯ですし、くれぐれも近付かないように」
 険しい表情で語り、担任は教室から出て行った。
 生徒達の間に不安の色が浮かび、口々に事件のことを小声で話し出す。
「あそこ、不良達が時々行っているんだってな。ところがそこで続々と姿を消しているらしいぞ」
「やだぁ。怖ーい」
(それってまさか…)
 少女は心当たりがあった。
 華羅臨海工場跡地は夜になると業魔が出る。
 海の生物に憑り付いた業魔が、夜になると海から出てくる。
 昼間は海の底に身を隠している為、発見が難しいものだと聞いたことがあった。
(ちょっと見に行ってみるか)
 夕方であれば、まだ太陽の日は出ている。
 そう思い、学校が終わってから現場へ向かった。
 少女は実家が神社ゆえに、幼い頃から闇の存在についての知識を得ていた。
 その知識さえあれば最低限、自分の身は守れるだろう―と過信してしまった。


「ん~。朧気にしか視えないな」
 天気が悪いせいか、海を見渡してもよく視えない。
 あまり海辺に近付かないように、周囲を歩いていろいろな所を視たが、僅かな気配しか感じらない。
「何かはいるんだが……視えにくい。もう限界だな。後で父様に言ってみるか」
 華羅皇神社に父が相談しに行けば、何かが変わるかもしれない。
 見に来たことは言わないで、学校で噂を聞いたことだけ話そう。
 そう決めて海に背を向けた―瞬間、グイッと右足を引かれた。
「えっ?」
 足元に視線を向け、言葉を失う。
 見た目は赤いタコの足、だが吸盤は無く、代わりに銀色の棘があった。
 ソレが少女の右足首に巻きついていて、棘が刺さり、血が静かに流れ始めていた。
「あっ…ああっ……!」
 震え出す体で海へと視線を向ける。
 暗い海の中に潜む、二つの赤い光。
 ボンヤリと浮かぶ異形の赤き眼を見たが最後、少女の体は力を失った。
 どうやら針には毒があったらしい。
 全身がマヒしてしまい、声も出せず、指一本動かない。
 少女の体は空中に引き上げられ、そしてコンクリートの地面に背中から叩き付けられる。
 喉から出たのは息と血だった。
 タコの足は離れ、そのまま海の中へ戻った。
 少女は痛みも感じないまま、死を向かえるのを感じていた。
 時刻は夕方でも今日は天気が悪く、陽の光は降り注がない。
 業魔はこういう状況ならば、少しは動けるらしい。
(このこと、もっと早く知っていればな……)
 目の前が暗くなり、少女は意識を手放した。


「なぁ、おい。何時まで寝てんだよ。起きろよ、慧花」
 サトカと自分の名前を呼ばれ、少女はうっすら眼を開ける。
 眼に映ったのは、いわゆるチャラ男だった。
(……誰だ? コイツ。私の知り合いにいたか?)
 慧花は怪訝な眼差しを青年に向ける。
 歳は慧花と同じ、十七ぐらいに見えた。
 少し伸びた茶色の髪に、琥珀色のつり上がった眼。
 美しく整った顔立ちには、皮肉な笑みが良く似合う。
 Tシャツの袖の下の二の腕には、銀色のチェーンが巻いてある。
 黙っていればモデルのように見えるが、その雰囲気と口調は軽い。
 思わず睨み付けると、青年は苦笑する。
「オレの姿が不満みたいだな。だがこの姿はお前が無意識に願った形なんだ。オレに文句言うなよ?」
「私が願う……? まさかっ!」
 慧花は慌てて起き上がった。
 血まみれになっていた体には傷一つなく、心臓は安定した鼓動を刻んでいる。
 しかし左手に違和感を感じた。
 自分のモノではない、感覚が宿っているみたいだ。
 左手を恐る恐る開き、意識を集中させる。


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【2017/05/12 01:52】 | 【ホラー/オカルト短編集】
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 そう言って彼女は自分の胸元を開いて見せる。
 細く白い首にはロザリオがあった。
 黒い数珠でつながれたその先の十字架は黒く、赤い蛇が絡み付いている。
 …とてもじゃないが、教徒が身に付ける物ではない。
 わたしは顔を歪め、低い声で問いかける。
「…それ、術が書かれていた本と共に付いてきたの?」
「ええ、そうよ。ネットショップで購入したの。はじめは本物だとはあたしも思わなかった。けれど本の通りにしたら、術が使えるようになったの!」
 彼女は眼を輝かせ、不気味なぐらい明るい調子で語る。
 自分が『魔女』になったと思い、すっかり陶酔気分のようだ。
「それまであたしのことを『影が薄い』だの『空気』だの言っていたヤツらも、あたしの機嫌を窺うようになった! あたしは『特別』になれたのよ!」
「―くっだらない」
 わたしは眉をしかめ、言い捨てた。
「一時は栄光に満ちた日々を送れるでしょう。でも今は? 落ち始めていることに気付いたから、そんなに慌てているのよね?」
 彼女の口元が、ひくっと動く。
 それに続き、目元や頬までも痙攣を起こす。
 ―高く積み上げたプライドが砕かれているのを感じているのだ。
「価値観の違いってヤツかしらね。わたしは『特別』が偉いことだなんて、一度たりとも思ったことはない。逆に『普通』であることこそが、誇れることだと思っているから」
「『普通』の方がくだらないじゃない!」
「『特別』であればその分、失うモノも『普通』とは違うってこと、分かっていないでしょう?」
「何をっ…!」

 ゴロッ ゴロゴロッ…!

 雷の音がどんどん大きくなり、鼓膜だけじゃなく体にもその振動が伝わってくる。
「まっ、これ以上あなたがどうしようがわたしには関係ない。もう二度と、わたしに関わってこない方が身の為よ」
「っ! 逃がさない…!」
 恐ろしく低い声で呟いた後、彼女の口から呪いの言葉が紡がれる。
 言葉は黒いモヤとなり、彼女の体を包み込んでいく。
 その様子を、わたしは冷ややかな眼差しで見つめる。
「―警告はしたわよ」
「黙れっ!」
 彼女が叫ぶと同時に、黒いモヤは大蛇となり、わたしに襲いかかってきた。
 だが……。

 ゴロゴロッ ドカーーーンッ!

「…かはっ」
 落雷が、彼女の体に落ちた。
 それと同時に大蛇は消滅し、黒焦げとなった体は地面に崩れ落ちる。
 その上に、ポツポツ…と雨が降り注ぎはじめた。
「傘、持ってきて良かった」
 わたしはカバンから折りたたみ傘を取り出し、さした。
 雨は勢いを増し、周囲の光景すら見えなくしていく。
「そのロザリオ、逆凪を防いでくれる物じゃなくて、術を使う者の力を強くする物なの。そしてあなたがそういう眼に合ったのは、わたしが本物の『魔女』だからよ」
 本物だからこそ、低級なモノは寄って来れない。
 ゆえに交霊術も心霊スポットも、わたしは無意味にしてしまうのだ。
 わたしの意思に関係なく、身を守る為の術は発動してしまう。
 そしてその対価は…不老。
 発動する度に、わたしの成長は止まってしまう。
 もうすでに百年以上、この姿でわたしは生きていた。
「自分でかけた術じゃないだけに、忌まわしいことこの上ないわね」
 そう言いながら、彼女の元へ歩く。
 そして砕け散ったロザリオを見た。
「この十字架は……やはり」
 見覚えがあった。
 かつてわたしに術をかけた者が、コレと同じ物を身に付けていたのだ。
 思い出そうとしている時、わたしの携帯電話が震えた。
 着信は見知らぬ番号から。
 でもこれは―偶然じゃないだろう。
「…もしもし?」
『久し振りだね。無事だったかい?』
 柔らかな男性の声に、胸の中に熱く黒い感情が渦巻く。
「やっぱりあなたの仕業でしたか、師匠」
 かつてわたしはこの声の主に、魔術を教えてもらった。
 ―だが結局、わたしは彼にとって実験動物の一つでしかなかったことに気付き、彼とは決別したのだ。
『偶然、と言ったら信じてくれるかい?』
「いえ。絶対にわたしの同級生だと知って、半端な術本を与えたのでしょう? 小遣い稼ぎにしては悪趣味ですね」
 術の恐ろしさを知らない人間に売りつけるなんて、普通の魔女や魔術師なら有り得ない。
 けれどわたしをこんな体にした張本人ならありえてしまうのだから、タチが悪過ぎる。
『アハハ。やっぱりお前には見抜かれてしまうね。…久しぶりに会いたいよ』
「激しく遠慮させていただきます」
『つれないねぇ。お前は数百年前と変わらず、美しい少女の姿なんだろうね』
「……そういうふうにしたのは、あなたでしょう?」
 嫌悪もあらわに言うが、電話の向こうの相手は相変わらずの軽い調子のまま。
『だって私はお前の姿を愛しているから。だからこそ時を止め、守る術をかけたと言うのに…。私の愛を理解してくれないなんて、師匠として悲しいよ』
 中身ではなく、外見のみとハッキリと言うのだから、男としても最低なヤツだ。
「…ああ、そうですか。とにかくわたしはもう二度と、師匠と会うつもりはありませんので。お元気で」
 そして通話を切った。
 これ以上話していると、こっちが精神的にダメージを食らうだけで損だ。
「さて、と…」
 どうやら師匠に居場所がバレているようだし、もうここにはいられないな。
「やれやれ。いつまでこの逃亡劇は続くんだか…」
 けれどどこに逃げてもきっと、師匠はわたしを見つけるのだろう。
 そして彼女のような『魔女』か『魔術師』を作り出すのかもしれない。
 それが分かっていて、わたしは人間の中に逃げ込むのだから……。
「性格の悪さは、師匠譲り、か…」
 強い雨が降り続く中、わたしは苦笑した。


【終わり】


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【2017/05/10 07:07】 | 【ホラー/オカルト短編集】
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