生きていれば、もう二度と会いたくないと思う人間は必ず一人はいると思う。
「おっ、おチビじゃねーか! ひっさしぶりだなあ!」
…それが特に、小学二年生の時に思いっきりイジメられた男だと余計に。
桜が満開の高校入学式で、あたしはそのイジメっ子と再会した。
「どっどうしてここにっ…!」
小学二年の時に同じクラスになったコイツは、何かとあたしをイジメてきた。
けれどそれも三ヶ月も経たずに終わった。
理由はコイツが転校して行ったから。
あの時ほどほっとしたことはない。
あたしはそのまま地元に残り、平穏で平和な小・中学生活を送ってきたのに…!
「いや、今度親父が海外転勤になっちまって。でもオレ、英語が苦手でさ。日本に一人で残ることにしたんだ」
一緒に行けばよかったのにっ!
思い出したくもない、忌々しい思い出が次々とよみがえってくる。
あっ…倒れそう。
「また三年間、よろしくな!」
なのにコイツときたら、平然と明るい笑顔を浮かべやがる…。
まあ同じクラスになるとは限らないしな……と思っていたのに!
同じクラスの上、苗字の席順でも前後と近い!
…神様はあたしに何の恨みがあるんだろう?
あたしはできるだけ近づきたくなかったのに、コイツは平然と話しかけてくる。
やがて互いに友達ができたものの、何故か男女入りまじったグループになった。
そうなれば当然、遊んだりつるんだりするのはグループ行動が多くなるわけで……そうなると、アイツとも接する機会が多くなる。
…本当に嫌だ。
小学二年の頃のアイツは、あたしにとって悪魔だった。
まあ子供ながらのイタズラが多かったけれど、大分傷付いた。
まず髪の毛をグシャグシャにされる、おもちゃの爬虫類で驚かしてくる、ノートや教科書に落書きをされる…などなど、数多くの
イジワルをされたきたのだ。
流石に周囲の友達や大人達も、時々は見兼ねて止めてくれた。
けれどコイツは全く反省なんかせず、直らなかった!
…あの頃、支えてくれる友達がいなかったら、不登校になっていただろうな…。
「何、遠い目してるんだよ? なあ、ちょっとノート見せてくれよ」
前の席に座るコイツは、こうやっていっつも気軽に話かけてくる。
「絶対イヤ」
だからあたしはノートを胸に抱え、拒否をした。
「何でだよ?」
「授業中に寝ているヤツが悪いから」
ハッキリ言うと、近くにいた友達がクスクス笑う。
「なっ…! すっ少しだけ貸してくれよ」
「他に人に借りなさい」
情けない顔をするけれど、あたしはそのままノートを机の中に入れる。
「ひっでぇ! ううっ…。昔はもっと優しかったのに…」
「違うわよ。昔は弱かったの!」
コイツに
イジワルされて、何も抵抗できないぐらいに弱かった。
だからコイツが転校しても、あたしは強くなろうと思って、生きてきた。
様々な武術を習ったり、勉強も頑張ったり、人付き合いも上手くできるようになった。
…まあコイツは不思議なことに、明るくて分かりやすい性格をしているから、友達があたしよりも多いけど。
それでも成績はあたしの方が上っ!
「ちゃー…」
ブツブツ言うも、それでも予鈴の鐘が鳴ったので前を向く。
…そう、決して許しちゃいけない。
確かに小学生の頃の
イジワルは苦々しい思い出だけど……それ以上に、コイツには最悪なことをされたのだ。
その一点だけは、決して許すまじっ!
例えコイツが忘れていても、あたしは絶対に忘れられない!
そういう出来事があったからこそ、あたしはずっとコイツに冷たいままだった。
友達には
イジワルされた過去を話すと苦笑して、あたしの味方をしてくれる。
けれどアイツに対して評価が下がるわけじゃなく、こういうのを人徳って言うんだろうな。
「はあ…」
早く来年にならないかな?
クラス替えでコイツの顔を見なくなれば、平穏を取り戻せるのに…。
――そして一年後。
念願かなって、あたしはアイツと別のクラスになった。
しかもアイツは一番最初のクラスで、あたしは最後のクラス。
校舎も別になり、晴れてあたしは平穏な日々を取り戻した!
新しいクラスでは新しい友達もできて、一年の時のグループとも遊ぶ回数は減っていった。
だけどまあみんな、新しい友達が増えて喜んでいたし、別に良い…と思っていたのに。
何故かアイツだけは見るたびに元気をなくしていく。
高校二年の秋にはげっそり痩せていて、流石に心配して、声をかけてみることにした。
他の友達や先生、親が聞いても何も答えないと言うから、あたしが話しかけても同じかもしれないけど…。
放課後、誰もいなくなった教室で、アイツに机の上で寝ていた。
「…ねっねえ、大丈夫?」
今にも倒れそうな顔をしているから、声をかけつつ近付く。
するとゆっくりと顔を上げて、あたしを見るなり、いきなり腰に抱き着いてきた!
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